枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、「わかりやすい」「初心者向け」となっているとは思いますがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

かへる年の二月廿余日② ~久しう寝起きて下りたれば~

 いっぱい寝て、起きて自分の部屋に戻ったら、「昨日の晩、どなたかがすごく戸を叩かれたから、やっとのことで起き上がって応対したところ、『上に行っていらっしゃるのですか、だったら、かくかくしかじか申し上げてくれないかな』ってことだったんですけど、まさかこんな時刻に起きられるなんてないだろうって、私、寝てしまったのです」って言うのね。
 心無い対応をしたもんだわねぇ、って聞いてたら、主殿司が来て、「頭の中将がおっしゃってました、『今まさに、退出するんだけれども、お話ししたいことがあるんですよ』って」と言うもんだから、「しなきゃいけないことがあるから、御前に上がります。そこで会いましょう」って言って、使いの主殿司を帰したの。

 自分の局だと彼が戸を引き開けて来るんじゃないかって、ドキドキして困っちゃうから、梅壺の東側の半蔀を上げて、「こちらへどうぞ」って言ったら、麗しい様子で歩いてこられたのよね。

 桜襲の綾の直衣がとっても華やかで、裏の艶なんか、言いようがないほど清らかで、葡萄染(えびぞめ)のとても濃い指貫には藤の花の折枝の模様をおおげさなくらい織り散らして、下の衣の紅の色や打目なんかは輝くように見えるの。で、白や薄色のシャツを何枚も重ね着してて。狭い縁に、片足は縁から下におろして、少し簾の近くに寄って座っていらっしゃる姿は、ほんと、絵に描いたり、物語で素晴らしいこと、って言ってるのは、こういうことなんだな、っていうように見えたものだわ。


----------訳者の戯言---------

「主殿司」は宮中の雑務担当職員です。すぐ前の段にも出てきていました。

半蔀(はじとみ)というのは、寝殿の開口部、窓のようなものです。上半分を外側へ吊り上げるようにし、下半分をはめ込みとした蔀戸(しとみど)ということです。では、蔀戸とは何ぞや? はい、「板の両面に格子を組んだ戸」です。「吊り上げる式の戸全般」をこう言ったんですね。ま、重かったらしいですから、半蔀として上半分吊り上げるくらいでちょうどいいのでしょう。ほんまかいな。

「桜の綾の直衣」と出てきます。これは桜襲(さくらがさね)の綾の直衣のことであり、実は「三月三日は」の段でも「桜直衣」というのが出てきました。表地は白で、裏地が二藍(藍+紅、つまり紫系の色に染めた生地)の直衣なのですが、この段のは「綾」とありますから、綾織で文様を織り出してるのではないでしょうか。
 この色の直衣は、これまでにもよく登場しています。清少納言が個人的に「おっしゃれー」と思っていたのか、それとも世間一般にオシャレアイテムだったのかはよくわかりませんが、だいたいいい男がこれを着ている感じですね。

「葡萄染(えびぞめ)」というのは、赤みがかった紫色です。「過ぎにし方恋しきもの」の段に詳しく書いていますので、よろしければご参照ください。

原文に「おどろおどろしく」という語が出てきますが、これは古語では「おおげさに」という意味の語です。もしくは「ものすごい」くらいの感じでしょうか。「いかにも恐ろしい」「気味が悪い」という意味もあったようですが、今に至ってはこっちのほうだけが残ったようですね。「おどろおどろしい」。夢野久作横溝正史の小説の雰囲気を表現する時に使う感じですね。

打目というのは、絹を砧で打ったときに生じる光沢の模様のことだそうです。

「薄色」はやや赤みのある非常に薄い薄紫。「七月ばかりいみじう暑ければ」に出てきましたのでご参照ください。

ちょっと私、前段では、後に道長派に転じた彼のことを、清少納言が快く思ってないんじゃないかと誤解していたかもしれません。この段は、前段で仲直りしてから、1年くらい後の話ですが、清少納言、頭の中将(藤原斉信)をかなり高評価しています。男前だったのか。目がハートになりそうな感じでさえあります。
果たして、この後どういう展開になるのか。
③に続きます。


【原文】

 久しう寝起きて下りたれば、「昨夜(よべ)いみじう人の叩かせ給ひし、からうじて起きて侍りしかば、『上にか、さらば、かくなむと聞こえよ』と侍りしかども、よも起きさせ給はじとて臥し侍りにき」と語る。心もなのことやと聞くほどに、主殿司来て、「頭の殿の聞こえさせ給ふ、『ただ今まかづるを、聞こゆべきことなむある』」といへば、「見るべきことありて、上へなむのぼり侍る。そこにて」と言ひてやりつ。

 局は引きもやあけ給はむと心ときめき、わづらはしければ、梅壺の東面、半蔀あげて、「ここに」といへば、めでたくてぞあゆみ出で給へる。

 桜の綾の直衣のいみじうはなばなと、裏のつやなどえも言はず清らなるに、葡萄染のいと濃き指貫、藤の折枝おどろおどろしく織り乱りて、紅の色、打目など輝くばかりぞ見ゆる。白き、薄色など、下にあまたかさなりたり。せばき縁に片つかたは下ながら少し簾のもと近う寄りゐ給へるぞ、まことに絵にかき、物語のめでたきことに言ひたる、これにこそはとぞ見えたる。

 

すらすら読める枕草子

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