枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

過ぎにし方恋しきもの

 過ぎてしまったことが恋しくなるもの。枯れてしまった葵。人形遊びの道具。二藍や葡萄染めとかの切れはしが、押しつぶされて本にはさまっているのを、見つけたとき。

 それから、もらった時ステキだと思った人の手紙を、雨なんか降って何にもやることがない日に、探し出してみたの。去年使ってた扇子もね。


----------訳者の戯言---------

葵というのは、葵祭の時に御簾とかに飾った葵のことでしょう。

で、「枯れてしまった葵」については、徒然草の第百三十八段に、この枕草子の一節が引用されてます。吉田兼好は、枕草子のファンでもあったようで、枕草子のマネや引用をところどころでやってるんですよね。

で、徒然草では兼好が「古い和歌の詞書(ことばがき)にも『枯れたる葵にさしてつかはしける』とあるんだ」というようなことも書いています。兼好法師清少納言に劣らず、博学自慢、さすがですね。

また、清少納言より少し後の時代の人ですが、周防内侍という女性歌人が詠んだ次のような和歌もありまして、これも兼好が徒然草で紹介しています。

かくれどもかひなき物はもろともにみすの葵の枯葉なりけり
(かけておいても意味ないものは、彼氏と一緒に見ることができなくなった御簾の葵の枯葉なんだよなぁ)

「二藍」は「三月三日は」の段や「四月 祭の頃」の段でも出てきましたね。紫系の色の生地です。薄い青紫という感じ。

「葡萄染め」は「ぶどうぞめ」と読んでしまいがちですが、「えびぞめ」が正解。古代から日本に自生していた「葡萄葛(エビカズラ)」で染めた織物ということになります。「葡萄葛」は、ま、簡単に言うと「ヤマブドウ」の昔の呼び方なんだそうですよ。もちろん「葡萄」だけなら「えび」と読みました。江戸中期頃から一般には「ぶどう」になったみたいですね。
ちなみに、私のPCで「えび」と入力しても「葡萄」に変換はできません。
色としては、こちらも紫系の生地です。二藍よりは少し赤みが強く濃い印象ですね。

「さいで」とは、漢字で「割出」「裂帛」などと書き、元は「さきで」だったのが変化したもの、のようです。布の切れ端、布切れのことです。

いずれにしても淡いパープル系の布です。わざわざこの二つの色を取り上げているということは、清少納言が他の色ではなく、こんな淡いパープル系の色だったからこそ、しみじみした、ということが考えられます。
二藍葡萄染については←リンクをつけましたので、興味のある方はご覧ください。

蝙蝠はもちろん「こうもり」なんですが、この時代は「かわほり」と呼んでいました。ここで出てきたのは開くとコウモリが羽を広げた形に似るところから名づけられた蝙蝠扇(かわほりおうぎ)のことのようです。といっても、私には普通の扇に見えますけどね。「蝙蝠(かわほり)」だけで扇の別名として用いられたようです。

この段では、郷愁、しみじみと思い出す気分、少しウェットでせつない気持ち、をこんな風に切り取ったのは、清少納言さすがだと思いました。


【原文】

 過ぎにし方恋しきもの 枯れたる葵。ひひなあそびの調度。二藍、葡萄染(えびぞ)めなどのさいで(=布切れ)の、おしへされて草子の中などにありける、見つけたる。

 また、折からあはれなりし人の文、雨など降り、つれづれなる日、探し出でたる。去年(こぞ)の蝙蝠(かはほり)。


検:すぎにしかた恋しきもの 過ぎにし方恋しきもの

 

 

枕草子 (岩波文庫)

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