枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

四月 祭の頃

 4月、葵祭の頃って、すごく素敵な季節。宮中の幹部たちから、四位、五位、六位の昇殿を許された職員たちまで、上着は濃いか薄いかの違いはあるんだけど、白襲(しらがさね)はみんなおんなじ様子で、凉しげでいい感じ。

 木々の葉っぱは、まだすごく茂ってるってほどじゃなく、若々しく青さが広がってて、霞も霧も立ってない空の風景が、何となく、理由もないけど素敵に思えて、少し曇った夕方や夜なんかに、そっとホトトギスが遠くで、そら耳かなって思うくらいに、たどたどしく鳴いてるのが聴こえたのって、どんな気持ちがすると思う?(すごくいい気持ちに決まってるでしょ!)

 (賀茂)祭が近くなって、青朽葉(青味がかった朽葉色)、二藍(藍+紅で染めた紫色)の反物なんかを巻いて、紙とかにほんの少しだけ包んで、行ったり来たり歩いてるのもいいよね。裾濃(裾が濃くなっていくグラデーション柄)、むら濃(=斑濃。ところどころを濃淡にぼかして染め出した柄)、巻染(布を巻いて糸で括って染めて、括った部分が白く残ってる生地の柄)なんかも、普段よりもっと素敵に感じるわ。
 子どもの頭だけはきれいに洗って整えてるんだけど、身なりはっていうと、服が全部ほころんでしまって、ぐっしゃぐしゃになりかけてるんだけど、下駄や靴なんかに「鼻緒をつけさせて!裏打ちをさせて!」なんて言って、大騒ぎして、早くそのお祭りの日にならないかなって、はやって、どんどん歩き回ってるのも、とってもかわいいのよね。で、そうやってはしゃいで歩き回ってる子たちが、ちゃんとした衣装をきちんと着れば、まるで定者とかいう僧侶みたいに練り歩くの。なんだか心配なんでしょう、それぞれの身分に応じて、親や叔母、姉たちがついてって着物を整えたりして、連れて歩くのも良いものよね。

 蔵人を目指してるけど、すぐにはなれない人が、この祭の日に(蔵人と同じ)青色の衣装を着るんだけど、別にすぐに脱がさなくてもいいじゃない、って思うの。綾(綾織物)じゃないのはダメだけどね。


----------訳者の戯言---------

祭と言うと、当時は当然のこととして「葵祭」のことだったようですね。今は5月15日だそうです。けど昔は、旧暦の4月だったのは間違いありません。

原文には「袍」(うへのきぬ)っていう書き方になってるんですが、これは、ま、上着のことでしょう。位によって着るものの色なんかは違ってたようですね。当時は身分制度がっちがちの時代ですから、想像はできますが。

白襲(しらがさね)は、これも当時の衣装の一つなんでしょうけど、上着の下に着るもののようですね。白下襲とも言われるようです。

蔵人というのは、天皇の秘書官だそうです。だいたい10人くらい、いたらしい。憧れの職業の一つだったんでしょうか。
綾織物っていうのは、織り目が斜めになっている織物だそうで、文様を織り出してるようなのが多いみたいですね。
ここで「青色」って出てきますけど、実はこれ、ブルー系じゃないらしいです。「麹塵(きくじん/きじん)」と言われる色で、調べてみたところベージュでした、はっきり言って。あえて言えば黄味がかった緑(青?)です。

しかし葵祭。これ、徒然草で出てきた時も思ったんですけど、面白いの? 少なくとも今の時代は面白くないと思います。けど、当時は、今のTDLのパレードみたいに華やかな、イケてるイベントだったんだろうなとは思いますよ。

 

定者(じょうじゃ)というのは、法会(ほうえ)のとき、行列の先頭に立って香炉を持って進む役の僧侶だそうです。(2023/7/6追記)

 

【原文】

四月 祭の頃、いとをかし。上達部、殿上人も、袍の濃き薄きばかりのけぢめにて、白襲(しらがさね)ども同じさまに、凉しげにをかし。

木々の木の葉、まだいとしげうはあらで、わかやかに青みわたりたるに、霞も霧もへだてぬ空のけしきの、何となくすずろにをかしきに、少し曇りたる夕つ方、夜など、忍びたる郭公(ほととぎす)の遠くそら音かとおぼゆばかり、たどたどしきを聞きつけたらむは、何心地かせむ。

祭近くなりて、青朽葉、二藍の物どもおしまきて、紙などにけしきばかりおしつつみて、行きちがひもてありくこそをかしけれ。裾濃、むら濃、巻染なども、常よりはをかしく見ゆ。童の、頭ばかりを洗ひつくろひて、なりはみなほころび絶え、乱れかかりたるもあるが、屐子、履などに、「緒すげさせ。裏をさせ」などもてさわぎて、いつしかその日にならなむと、急ぎおしありくも、いとをかしや。あやしうをどりありく者どももの、装束(さうぞ)きしたてつれば、いみじく定者などいふ法師のやうに練りさまよふ。いかに心もとなからむ。ほどほどにつけて、親、をばの女、姉などの、供し、つくろひて、率てありくもをかし。

蔵人思ひしめたる人の、ふとしもえならぬが、この日青色着たるこそ、やがて脱がせでもあらばやとおぼゆれ。綾(あや)ならぬはわろき。


検:四月 祭の頃 四月、祭りのころ 四月、祭りの頃