枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

ことにきらきらしからぬ男の

 特別キラキラしてもない男で、背の高い人や低い人をたくさん引き連れてる従者よりも、少し乗り馴らした車がすごくツヤツヤしてて、身なりのとても相応しい牛飼童が、牛にすごく勢いがあって、その牛に遅れるように綱に引っ張られて車を進めてるのね。
 で、スレンダ―な男が、裾濃(すそご)っぽい袴で二藍か何かのをはいて、上着はなんてったって掻練(かいねり)、山吹色なんかを着てる者が、沓(くつ)はすごくピッカピカのを履いて、車輪の真ん中近くを走ってるのは、かえって奥ゆかしく見えるわね。


----------訳者の戯言---------

きらきらし。前も書いたんですが、こういう形容詞が昔はよくあるんですよね。漢字では「煌煌し」で、意味は、「光り輝いている」「きらきらしている」です。擬態語、オノマトペと形容詞が合致している語ですね。これについては「えせものの所得る折」にも書きましたので、よろしければご覧くださいね。

裾濃(すそご)も以前、出てきたことがあります。文字どおりなんですが、裾が徐々に濃くなっていくグラデーションです。

二藍(ふたあい)は、藍+紅=つまり紫系の色に染めた生地のことを言うそうですよ。
藍の上に紅花を染め重ねたんですね。二藍という名前も、昔は紅のことを「紅藍」と書いて「くれない」と読んだから、藍+紅藍=二藍なんです。
何回か書きましたが、紫色は希少で高価、高貴な色とされていました。それはやはり希少な紫草の根(紫根)で手間をかけて染めていたからなんですね。
先にも書いたように、この二藍のほうは、紫草を使わずに藍と紅を使った合わせ技ですから、少し安価というかカジュアルだったんでしょうね。とは言いましても、ユニクロのカシミアぐらいには贅沢なんじゃないかな。あるいは、カニカマぐらいには美味しいと思います。例えがわかりにくいですね、すみません。

掻練(かいねり)というのは、掻練襲(かいねりがさね)のことです。砧(きぬた)でよく打って、練ったり、糊を落として柔らかくした絹織物のことなんですが、特に紅色のものについて言うことが多いようですね。並列で「山吹」と書かれてますから、色を表してるのかもしれません。

つまり、スレンダーな従者が、二藍のパープル系のグラデ―ションのボトムスに、紅色か山吹色のトップスを着てて、靴はピカピカ!
私、コーディネート的にはパープル+山吹色のほうがいいですね。ただ、袴がグラデーションですから、紅でもいい感じには決まります。
細身と言うと、生田斗真とか松潤とかですか。もういい歳ですね。伊野尾とかですか。キンプリ永瀬廉かな。いずれにしても、そんなシュッとした男のコがオシャレに決めてる感じでしょうか。

原文にある 「なかなか」というのは、「なかなかいいじゃん」の「なかなか」ではありませんよ。現代語にする時は「かえって」「むしろ」「なまじっか」です。
前に「さうざうし」という言葉が出てきましたが、これも「騒々しい」ことを表すものではありませんでした。「索々し」で、「物足りない」「心寂しい」という語でしたね。これ、試験に出るやつと書きましたが、同じく「なかなか」も要チェックワードです。ひっかからないように。

筒(どう)というのは、こしき(轂)のことです。轂というのは牛車の車輪の中央にある円木。わかりやすく言うと、自転車とかの車輪のハブ(hub)です。円形または放射状の回転部品における軸付近の部位ですね。ややこしいですか? 元々は車輪のスポークを車輪中心で放射状に固定する部品なんですよね。よけいややっこしいかな。
ハブ空港とか言う時の、あのハブですね。それが筒(どう)なのです。一周半ぐらい回った感じの持って回った説明。どーだ。

結局、スマートな男子が、牛車に従って走ってたのが、奥ゆかしく思えたんでしょうかね。前々段から続いてたのか?


【原文】

 ことにきらきらしからぬ男の、高き、短かきあまたつれだちたるよりも、少し乗り馴らしたる車のいとつややかなるに、牛飼童、なりいとつきづきしうて、牛のいたうはやりたるを、童は遅るるやうに綱引かれて遣る。

 細やかなる男の裾濃だちたる袴、二藍か何ぞ、かみはいかにもいかにも、掻練、山吹など着たるが、沓のいとつややかなる、筒(どう)のもと近う走りたるは、なかなか心にくく見ゆ。