枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

初瀬に詣でて

 長谷寺に参詣して局に座ってたら、卑しい身分の低い者たちが下襲の裾を長く引きながら並んでたのには、ヤな感じがしたの。相当な思いで参詣したっていうのに初瀬川の音は怖ろしくって、呉階(くれはし)を上る時なんかめちゃくちゃ疲れちゃって、早く仏のお顔を拝みたい!て思ってたら、白衣を着た法師や簑虫みたいな者が集まって立ったり座ったり、額を地面に付けたりして、少しも遠慮する様子が無いのはほんと憎ったらしく思えて、押し倒しちゃいたい気がしたの。どこのお寺だって、それはそういうものなんだけどね。
 すごく身分の高い方なんかが参詣なさってる局とかの前なんかは人払いしてあるけど、そこそこ身分が高い程度の人は制しかねるようだわ。そういうものだとはわかってるけど、やっぱり直接そういうことがある時はすごく腹立つのよ。

 やっときれいにし終わった櫛を水垢の中に落としてしまった時もいまいましいわね!


----------訳者の戯言---------

初瀬(はせ/はつせ)は地名です。今の奈良県桜井市初瀬(はせ)町。長谷寺があります。ということで、「初瀬に詣で」と言うと、長谷寺に参詣する、という意味になるようですね。

「川の音」というのは初瀬川の流れる音でしょうか。古名は「はつせがわ」で、後に「はせがわ」となりました。今も初瀬川(はせがわ)です。というか、大和川なんですけどね。奈良から南大阪を流れるあの大和川の上流の方です。

呉階(くれはし)というのは、階段付きの長い廊下だそうです。


以前「ねたきもの」という段がありました。ねたしというのは、「いまいましい」「憎たらしい」「くやしい」といったような意味の言葉です。この段もねたきものを書いていますから、これも「ねたきもの」の続きみたいなものかもしれません。
しかし「あやしき下﨟ども」とか「簑虫みたいな者」って言い方、どうなの?? 相変わらず、身分の低い者が大嫌いな清少納言です。


【原文】

 初瀬に詣でて局にゐたりしに、あやしき下﨟どもの、後ろをうちまかせつつ居並みたりしこそねたかりしか。

 いみじき心起こして参りしに、川の音などのおそろしう、呉階(くれはし)を上(のぼ)るほどなど、おぼろげならず困じて、いつしか仏の御前をとく見奉らむと思ふに、白衣着たる法師、蓑虫などのやうなる者ども集まりて、立ちゐ、額づきなどして、つゆばかり所もおかぬけしきなるは、まことにこそねたくおぼえて、おし倒しもしつべき心地せしか。いづくもそれはさぞあるかし。

 やむごとなき人などの参り給へる御局などの前ばかりをこそ払ひなどもすれ、よろしきは制しわづらひぬめり。さは知りながらも、なほさしあたりてさる折々、いとねたきなり。

 掃(はら)ひ得たる櫛、あかに落とし入れたるもねたし。