枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

えせものの所得る折

 つまらないものが幅をきかせる時。正月の大根。行幸の際の姫もうちぎみ。即位の時の御門司(みかどのつかさ)。六月や十二月の末日に開催される節折(よおり)の蔵人。季の御読経の時の威儀師。赤い袈裟を着て、僧の名前を読み上げるのは、すごくキラキラしてて威厳があるわ。

 季の御読経や御仏名なんかのイベント設営をする蔵人所のスタッフたち。春日祭の時の近衛の舎人たち。元日の薬子(くすりこ)。卯杖の法師。五節の御前の試みの夜の髪結い担当の女房。節会の時、帝の配膳を担当する采女(うねめ)。


----------訳者の戯言---------

大根(おおね)ですが、大根(だいこん)のことです。元々、おほね→大根だったものを、ダイコンと読んだのが、時系列的には正しいようですね。

正月の大根と言うのは、「歯固め」というイベントに出されたもののようです。当時は、三が日に、鏡餠などを食べて長寿を願ったらしいですが、鏡餠の膳には、大根、瓜、芋、猪や鹿の肉、押し鮎なども出されたようなんですね。
押し鮎? 食べたことないですけど、想像通り、塩漬けにした鮎だとか。不味そー。
で、歯固め、っていうのは赤ちゃんの時にする儀式みたいに思いますが、みんなやってたわけですね。まあ、当時の正月恒例行事なんでしょう。箱根駅伝みたいなもんですか。

と、つまらないことはさておき、大根です。
大根? まあまあおいしいですけどね。おでん買う時は、まず大根でしょう。清少納言は大根が嫌いだったんでしょうかね。

姫まうち君。「まうちきみ(もうちきみ/もうちぎみ)」というのは「まへつきみ」とも言うようです。天皇の御前に仕える人に対する尊敬語だそうですが、姫が付きますから女官なのでしょうか。ということで、「ひめもうちぎみ」で検索。すると、「東豎子(あずまわらわ/東嬬)」とあり、「姫大夫(ひめもうちぎみ)とも称し、これが訛ったとされる姫松の呼称も用いられた」とウィキペディアに書いてました。

名称としては「東豎子(あずまわらわ/東嬬)=姫大夫(ひめもうちぎみ)=姫松」とのこと。内侍司に所属していた下級女官の1つで、帝が行幸の際には東豎子2名が男性官人の服装をして参列していたらしいです。このため男装の女官、とも言われるそうですね。この日ばかりは、下級女官なんだけど男装!ってことですから、清少納言的には「なんて日だ!」でしょう。バイきんぐ小峠ですか。

御門のつかさ(みかどのつかさ)というのは「闈司」とも書くそうです。「いし」と読むらしいですね。意味は、「令制で後宮十二司の一つ。宮中の諸門の鑰(かぎ)の管理および出納をつかさどる」とのこと。「闈」は門がまえに韋です。前に出てきた「囂し」(かしがまし)もそうですが、「闈」も一生書かないでしょうね。
ここで書かれているのは、その「みかどのつかさ」のスタッフのことなのだと思います。

節折と書いて「よおり」と読むらしいです。宮中で毎年6月と12月の末日にこの儀式が行われたそうですね。竹を節のところで折って、天皇、皇后、皇太子の身長を測って祓を行ったらしい。
蔵人は、所謂蔵人になぞらえて設置された女性版蔵人です。ただ、雑務をこなす下級女官ではあります。装束や裁縫のことも女蔵人の仕事の一つですが、この「節折蔵人」(よおりのくろうど)というのは、期間限定、節折担当という感じでしょうか。

「季の御読経」というのは、春と秋に国家安泰を祈願して宮中に僧を招いて行う、大般若経を転読する仏教法会なんだそうです。威儀師はこうした法会などで儀式を進行し、衆僧を指揮する役目の僧侶のことを言うのだそうですね。

「きらきらし」は「煌煌し」と書きます。「光り輝いている、威容がある」という形容詞ですが、擬態語、オノマトペの「キラキラ」と合致していますね。
こういう語は意外とあって、「スベスベ」は滑滑、「ツヤツヤ」は艶艶、「フサフサ」は総総、「ヒラヒラ」は片片、という具合です。これは日本語ならではだという気がしますね。

近衛舎人(このえのとねり)は、近衛府の下級職員ということですが、春日大社の例祭に追従したようです。

元三(がんざん/がんさん)は、年、月、日の三つの元、ということで、正月の一日、元日のことだそうですね。わざわざそんなややっこしいこと言わなくてもと思いますが。
で、平安時代には、この元日に、帝の供御される屠蘇(とそ)を未婚の少女の中から選ばれた薬子(くすりこ)が試飲、毒味をしたそうです。名誉なことなのかもしれませんが、子どもに毒味させるというのもどうかと思いませんか。

卯杖は、正月初の卯の日に、魔よけの具として用いる杖だそうで、以前、「ここちよげなるもの」に出てきました。これを持っている法師が誇らしげだったと書かれていますから、ま、そういうものなんでしょう。

「五節(ごせち)の御前の試み」というのは、五節の第2日の寅(とら)の日の夜に、帝が五節の舞姫の舞を清涼殿などでご覧になる儀式なんですが、その夜にダンサーたちのヘアメイクをした人たちがいたのでしょう。

さて、この段は、そもそも「似非もの」ですからね。完全に上からです。
一つだけ野菜ですが、あとは下級職員的な人たち。清少納言としたら、そりゃ、自分はセクレタリー、幹部的な地位にいるのでしょうけど、現場で雑務をこなすスタッフを見て、卑しい身分なのに、いいタイミングでいい所に配置されてよかったね、という感じです。かなりイヤラシイですね。


【原文】

 えせものの所得(う)る折 正月の大根(おほね)。行幸の折の姫まうち君。御即位の御門つかさ。六月・十二月のつごもりの節折(よをり)の蔵人。季の御読経の威儀師。赤袈裟着て僧の名どもをよみあげたる、いときらきらし。

 季の御読経。御(み)仏名などの御装束の所の衆。春日祭の近衛の舎人ども。元三の薬子(くすりこ)。卯杖の法師。御前の試みの夜の御髪上げ。節会(せちゑ)の御まかなひの采女(うねべ)。