枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

五月の長雨の頃

 五月の長雨の頃、上の御局(みつぼね)の小さい扉の簾に、斉信(ただのぶ)の中将が寄りかかっていらっしゃった、その香りはほんとに素敵だったわ♡ 何の香りかはわからないの。だいたい、雨で湿ってて、艶(なま)めかしい雰囲気っていうのは珍しくもないことなんだけど、でも、どうして言わないでおくことができるかしら?(思わず言っちゃうのよね) 翌日まで御簾に深く染み込んでたのを、若い女房たちが、他とは比べようもないくらい素敵!って思ったのは、当然のことよ。


----------訳者の戯言---------

五月の長雨というのは、ご存じのとおり梅雨のことです。なので、私たちは脳内で、「じめじめ鬱陶しい梅雨」に変換して読まなければいけません。この段、梅雨時の話ですからね、梅雨。
今日は2020年7月20日ですが、旧暦ではまだギリギリ5月です(明日が旧暦6月1日)。最近は7月下旬まで梅雨が続きます。しかも集中豪雨も多い気がしますしね。ちなみに私の住んでいる地域では、梅雨明けはまだ先のようです。

五月が終わると六月(水無月)となります。旧暦の水無月(6月)は、今の暦で言うと7月頃を中心に遅い年は8月の後半にかかる年もあるんですね。梅雨が明けて盛夏となる時期です。今年は8月18日まで旧6月(水無月)です。水無月というから水が無い月なのかというと、そうではありません。むしろ、「水の月」→「水(み)な月」から来ているとする説が強いようです。つまり、田植え後に田に水を張って満たす頃を表しているようなんですね。

ちょっと待てよ。田植えってもっと前でしょ。たしか梅雨よりは前でしょ?と思ったら、今はやはり5月始め頃が主流でした。が、昔はやはり梅雨時期、夏至くらいにしたようですね。
昔は灌漑が十分でなく、水稲栽培においては雨だけが頼りだったようで、梅雨入りして田に水が溜まってくるのが夏至の頃だったわけです。田植えを終えた後、しばらくは田に水を張る時期になります。これが「水無月」の頃だった、ということなのでしょう。

話を戻します。
上の御局(みつぼね)。上局(うへつぼね)とも言います。宮中で、后(きさき)、女御、更衣などが、普段使いの部屋のほかに、天皇の御座所の近くに特別に与えられた部屋だそうですね。清涼殿には弘徽殿と藤壺の二つの上局がありました。

そして、またまた出ました。
斉信(ただのぶ)の中将。藤原斉信です。男前にしてエリート、センスも抜群のモテモテ男子ですね。
そしてさらに。前の段の続きでしょうか。香り? 所謂、お香ネタが混じっています。さすが、斉信サマ、香、薰物(たきもの)に関してもスキがないですね。今で言うなら、つけてる香水とかオーデトワレもいかしてるモテ男ということなのでしょう。
女子たちみんな、どんだけ斉信好きやねん!っていう話です。


【原文】

 五月の長雨の頃、上の御局の小戸の簾に、斉信の中将の寄りゐ給へりし香は、まことにをかしうもありしかな。その物の香ともおぼえず。おほかた雨にもしめりて、艶なるけしきのめづらしげなきことなれど、いかでか言はではあらむ。またの日まで御簾にしみかへりたりしを、若き人などの世に知らず思へる、ことわりなりや。