枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

心にくきもの④ ~内裏の局などに~

 宮中の局なんかに、打ち解けてるって思われるとマズい男性が来てるから、私の部屋の灯は消してるんだけど、傍らにある灯の光が何かの物の上とかから差し込んで、さすがに物の形はほんのり見えてしまうから、背の低い几帳を引き寄せてね。ホント昼間は絶対に向き合うこともない二人だから、几帳のところに寄り添って横になってうつむいて。傾いた髪形の様子は隠しきれないみたいね。直衣や指貫とかは、几帳にかけてあるの。
 六位の蔵人の青色の袍ならしっくりくるでしょ。でも緑衫(ろうそう)だったら、後ろの方にくるくるっと丸めておいて。未明になっった時、探しあてることができないで戸惑うことになるでしょう!!

 夏も冬も、几帳の片側に着物を掛けて人が寝ているのを奥から突然見てしまった時も、すごくいかした感じに思えるわね。
 薫物(たきもの)の香りは、すごく奥ゆかしいの。


----------訳者の戯言---------

「几帳」また出てきました。毎度のことですが、移動式の布製の間仕切り、パーテーションです。

「六位の蔵人の青色」と出てきました。
蔵人は、青色の服(袍=上着)を着てたらしいです。そのためか、蔵人のことを「青色」と呼ぶこともあったようですね。この「青色」というのは実はブルー系ではないらしいです。「麹塵(きくじん/きじん)」と言われる色で、カーキというか、サンドベージュというか、濁った緑という感じです。
「淵は」という段でも書きましたが、当時は「青」というと白と黒の間の広い範囲の色で、主としては青・緑・藍をさしていたらしいです。

「緑衫(ろうそう/ろくさん)」は六位の役人全般が着ていた着物の色だそうです。こちらは深緑というかビリジアンに近い色です。こっちのほうがキレイな色だと個人的には思いましたし、当時の色の呼び方の定義からすると、青ということにもなりそうなんですけどね。ま、麹塵なんでしょう、ここで言いたい青っていうか、当時のステキな青は。六位の蔵人は、六位の人の中でも出世頭というか、有望というか、名誉な職とされているんですが、普通の六位は下級役人扱いなんですね、同じ六位なのに。

枕草子の中でも清少納言はやたらと「六位の蔵人」やこの「青色」を賞賛するんですよ。はっきり言って特別扱いです。

なお、六位の蔵人(六位蔵人)については、「六位の蔵人などは」にもう少し詳しく書いてあります。よろしければご参照ください。

「かいわぐむ」は「搔い綰む」と漢字で書くらしい。「たぐり寄せて丸める」ことだそうです。

薫物(たきもの)というのは、香をたいてその香烟(香煙)を衣服、頭髪、部屋などにしみこませること、また、その物自体を言います。香のことを指す場合もあるようですね。

心にくきもの=奥ゆかしいもの、の段、④最終回となりました。

昼間は気安く話せないけど、夜には部屋を訪れる関係の男性との「心にくき」逢瀬の様子を隣の部屋から観察する清少納言。外からは見えないようにと少々の気遣いはするけど、自身はきっちり覗き見的行為しているという矛盾。しかも、勝手に男の衣服を取って…いいのか?

女房の局に通ってきた男子は着物を脱いで几帳に掛けておくというのが普通だったようですね。
しかし、やはりと言うか、六位蔵人(の青色の上着)は几帳に掛けててヨイ彼氏だけど、フツ―の六位の下級役人(の緑衫の上着)はクラス的にアカン奴だから、丸めて隠しといてやれー、帰る頃になって慌てるのおもしれーからナー、ってめちゃくちゃ性格悪くないですか?
職業差別というか、階級差別というか、職位で人に対する扱いを変えるという最低な行為に及んでいますよ、清少納言。「下級役人の男にはこれぐらいのことしちゃっても全然おけ」って、ハラスメントを全肯定。しかも自分の彼氏とかでもないのに。コンプライアンス的にいかがかなと思いましたね。

香を焚きしめたのが、奥ゆかしくていかしてるー、とか今さら言われても全然響きませんよ、私は。


【原文】

 内裏の局などに、うちとくまじき人のあれば、こなたの火は消ちたるに、かたはらの光の、ものの上などよりとほりたれば、さすがにもののあやめはほのかに見ゆるに、短かき几帳引き寄せて、いと昼はさしも向かはぬ人なれば、几帳のかたに添ひ臥して、うちかたぶきたる頭つきのよさあしさは隠れざめり。直衣、指貫など几帳にうちかけたり。

 六位の蔵人の青色もあへなむ。緑衫(ろうさう)はしも、あとのかたにかいわぐみて、暁にもえ探りつけでまどはせこそせめ。

 夏も、冬も、几帳の片つ方にうちかけて人の臥したるを、奥のかたよりやをらのぞいたるも、いとをかし。

 薫物の香、いと心にくし。

 

枕草子 いとめでたし!

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