枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

左右の衛門の尉を

 左右の衛門の尉(じょう)を、判官(ほうがん)って名づけて、すごく恐ろしくて、でも立派な者だって思ってるの! 夜の見回りをして細殿とかの女房の部屋に入って寝てるのは、ほんと見苦しいわ。布の白袴を几帳に掛けて、袍(うへのきぬ)の長くていっぱいいっぱいになってるのを丸めて掛けてるのは、全然そこにふさわしくないの。衣を太刀の後ろに引っ掛けたりして、局をうろうろしてるのは、それでもまあいいわ。青い衣をいつも着てたら、どんなに素敵かしら! 「見し有明ぞ(見た有明の月が…!)」っていうのは誰が詠んだ歌だったでしょう??


----------訳者の戯言---------

左右の衛門府の尉(じょう)ですから、三等官です。判官というのはそもそも「じょう」なのですが、このあたりの時代から「ほうがん」または「はんがん」と呼ぶようになったようです。

判官贔屓(ほうがんびいき/はんがんびいき)という言葉がありますが、あれは源義経、源九郎判官義経なんて言われ方をしたりもしますが、あの義経が左衛門の尉つまり判官だったからなんですね。概ね個人に対して「ほうがん」と呼ぶのは九郎判官(ほうがん)義経を言う場合が多いようです。
当時は衛門少尉が宣旨によって検非違使の少尉を兼務したのですね。

判官贔屓というのは、ご存じのとおり、不遇であったものに対しての、客観的な視点を欠いた同情や哀惜の心情のことであります。あれだけの功勲があったのに疎まれ追われて成敗されてしまう。義経の場合は後白河法皇から宣旨を受けて左衛門尉=検非違使の尉になるわけですが、これによって頼朝の怒りを買ったわけで。判官にならなければ判官贔屓という語も生まれなかったわけで。皮肉なものです。
コミックかアニメかというような荒唐無稽でドラマチックすぎる人生を送った人で、人気も高かったからこそこのような言葉として残ってるんですね。


原文に「わがねかけたる」とありますが、これは「わがぬ」という動詞の連用形が使われています。「綰ぬ」と書き、「輪のように丸める。 丸くたわめ曲げる。」という意味になります。


蔵人は青色の袍を着てたらしいですね。そのため、蔵人のことを「青色」と呼ぶこともありました。この「青色」というのは実はブルー系ではなく、「麹塵(きくじん/きじん)」と言われる色で、カーキ色というか、濁った緑という感じの色だったようです。蔵人(特に六位の蔵人)は前途有望な職でもありましたから、いかしてる色だったのかもしれません。
ちなみに当時は「青」というと白と黒の間の広い範囲の色で、主として青・緑・藍をさしていたらしいです。

清少納言は蔵人をかなり買ってるようで「青色」大好きみたいです。しかしここで出てくるのは衛門府の尉(判官)です。本来、青い着物を着てるはずがないのに、着てたらいい。というのは、フリをしとけってことでしょ。そのほうが見苦しいと思うんですが。衛門府の尉に何を求めてるんだろう?って話です。


「見し有明ぞ」って詠んだのは誰だったかしら?っていうんですが、この元の歌についてはわかりませんでした。
意味は、「あなたと一緒に見た有明の月が…忘れられません!」という感じでしょうかね。そういうことが衛門少尉との間であった女房が詠んだか、当の少尉が詠んだのか…。


というわけで、衛門府の尉(判官)が夜の勤務時間中に女房の部屋を訪れて~~してるという話です。でもそもそも衛門の尉ですからね、警察・治安組織の幹部ですよ。左右あるのでだいたいナンバー5~8ぐらいのポジションでしょうか。現在の警察庁で考えると局長クラス、刑事局長とか警備局長とかそれぐらいの感じのお偉いさんです。それが…そういうことでいいのか??
清少納言も別にそのこと自体を云々してるわけでなく、衛門府の尉ごときがよー。ぐらいの感じで書いてます。衣服の掛け方どうだとか、やるなら蔵人の青い衣着て来いとか、的外れなこと言ってますね。問題はそこじゃないでしょ。公務員のモラルも何もあったもんじゃないですね。


【原文】

 左右(さう)の衛門の尉(ぞう)を判官(はうぐわん)といふ名つけて、いみじうおそろしう、かしこき者に思ひたるこそ。夜行し、細殿などに入り臥したる、いと見苦しかし。布の白袴、几帳にうちかけ、袍(うへのきぬ)の長くところせきを、わがねかけたる、いとつきなし。太刀の後(しり)に引きかけなどして立ちさまよふは、されどよし。青色をただ常に着たらば、いかにをかしからむ。「見し有明ぞ」と誰言ひけむ。