枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

大納言殿参り給ひて①

 大納言(伊周)殿が参上なさって、帝に漢詩文のことなんかを申し上げられてたら、例によって夜がかなり更けちゃったから、御前にいた女房たちは一人か二人ずつ姿を消してって、屏風や御几帳の後ろなんかにみんな隠れて寝てしまったもんだから、私はただ一人眠たいのを我慢して控えてたら「丑四つ」って時刻を奏したの。「夜も明けたようですわ」って独り言を言ったら、大納言殿が「いまさらお休みなさいますな」って、私が寝るとは思ってもないんだけど、やだ!何でそんなこと申し上げたんだろう??って思うけど。他に人がいたら紛れて寝ることもできるんだけどね…。
 帝が柱に寄りかかって少しお眠りになっていらっしゃるのを、(大納言殿が)「あれをご覧ください。もう夜は明けたのに、こんなにお眠りになっていいのでしょうかね?」って定子さまに申し上げると、「ほんとに」なんてお笑いになるんだけど帝は気づかれるご様子もなくってね、長女(おさめ)の使っている童が鶏を捕まえて持って来て、「明日の朝、里へ持って行こう」って言って隠しておいたの、どうしちゃったんでしょ??犬が見つけて追いかけたら、廊の間木(まぎ)に逃げ込んで恐ろしい声で鳴き騒ぐから、みんな起きちゃったようだわ。


----------訳者の戯言---------

丑四つ。時奏=時を奏すると言って時報を人がやっていました。
詳しくは「時奏する、いみじうをかし」に書いていますので、お読みいただけるとおわかりいただけるはずですが、ごぞんじのとおり、かつて時刻は十二支で表しました。これを「十二時辰」と言います。子丑寅…っていうやつですね。それぞれ2時間なんですが、その真ん中時刻(正刻)の前1時間、後1時間を合わせて〇〇の刻としました。それをさらに四つに分け、30分ごとに一つ(一刻)、二つ(二刻)、三つ(三刻)、四つ(四刻)としたわけですね。
丑の刻の中心時刻は今で言うところの午前2時ですから、1:00~1:30は丑一つ、1:30~2:00が丑二つとなります。
怪談などでよく「草木も眠る丑三つ時」などと言いますが、2:00~2:30頃なんですね。
というわけで、丑四つは2:30~3:00です。

長女(おさめ)は雑用などにあたった下級の女官です。さらにそのスタッフとして子どもを雇っていたのでしょう。


廊の間木(まぎ/まき)。長押(なげし)の上に作った棚です。

では長押とは何ぞや? 一般的なのはここにも出てきた長押のこと。引き戸の上の部分、鴨居の上です。
柱に垂直(つまり水平)に渡した構造材、というのが一般的な意味合いとなります。鴨居っていうのは、引き戸の上のレールのことです。敷居が下のレールです。
つまり長押っていうのは、柱同士を水平方向につないで外側から打ち付けられてる構造材全般を言いますから、上部にも下部にもあります。地面に沿うようなのもあるようです。長押のところに座る、というような文章を見ることもありますね。

廊は「ろう」とか「わたどの」と読みます。寝殿造りでは、建物と建物とをつなぐ屋根のついた通路を指します。渡殿(わたどの)と表現でしますね。時々出てくる細殿(ほそどの)も同義です。


なかなかの夜ふかしです。1時、2時、3時となると一人ずつ抜けていくのもわからなくありません。
しかし大納言の伊周はなかなか元気です。こういうキャラの人が一番困るんですよね、現代のリアル生活でも。お付き合いをしたくないタイプですね。

ニワトリを隠してた子もどうかと思います。しかし犬に罪はありません。
犬と言えば「うへに候ふ御猫は①」に登場した翁丸ですね。ここで出てきた犬も翁丸かもしれません。「うへに候ふ御猫は」では「いみじうゆるぎありきつる物を(すごくゆったりと歩いてたのに)」とありますから、小型犬とかではなく、秋田県とかの比較的大型犬だったのではないかと思われます。

というわけで、②に続きます。

【原文】

 大納言殿参り給ひて、ふみのことなど奏し給ふに、例の、夜いたくふけぬれば、御前なる人々、一人二人づつ失せて、御屏風、御几帳の後ろなどに、みな隠れ臥しぬれば、ただ一人、ねぶたきを念じて候ふに、「丑四つ」と奏すなり。「明け侍りぬなり」と一人ごつを、大納言殿「いまさらに、な大殿ごもりおはしましそ」とて、寝(ぬ)べきものとも思(おぼ)いたらぬを、うたて、何しにさ申しつらむと思へど、また人のあらばこそは、まぎれも臥さめ。上の御前の、柱に寄りかからせ給ひて、少し眠らせ給ふを、「かれ、見奉らせ給へ。今は明けぬるに、かう大殿籠るべきかは」と申させ給へば、「げに」など、宮の御前にも笑ひ聞こえさせ給ふも、知らせ給はぬほどに、長女(をさめ)が童の、鶏(にはとり)を捕らへ持て来て、「あしたに里へ持て行かむ」といひて隠し置きたりける、いかがしけむ、犬見つけて追ひければ、廊のまきに逃げ入りて、おそろしう鳴きののしるに、みな人起きなどしぬなり。