枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

関白殿、二月二十一日に㉓ ~入らせ給ひて~

 関白殿がお入りになって見上げなさったら、みんな裳、唐衣を御匣殿(みくしげどの)までもが着ていらっしゃるの。殿の奥方は裳の上に小袿(こうちき)だけ着ていらっしゃるわ。「絵に描いたようなお姿! もうお一人も、今日はみんな認めるいっぱしに仕上がってるし…」って申されるのね。「三位の君(三番目の娘)ちゃん、中宮さまの裳をお脱がせなさい。この中の主君は中宮の定子さましかいらっしゃらないのだからね。御桟敷の前に陣屋を置いていらっしゃるのは、いいかげんなことじゃないんだよ」ってお泣きになるのよ。ほんとそのとおりだわ、って思って、みんな涙ぐんでたら、私が赤色の表着に桜襲の五重の衣を着てるのを関白殿がご覧になって、「法衣の一つが足りなくて、急なことだったもんだから騒いでたんだけど、これこそ、僧侶にお返しすべきものだったんじゃないのかな?? いや、もしかして赤い衣を独り占めになさってたのか?」っておっしゃるもんだから、大納言殿(伊周)は少し下がって座っていらっしゃったんだけど、お聞きつけられて、「清僧都のものだったんでしょうね」っておっしゃるの。ひと言だって素晴らしくないことはないわ。


----------訳者の戯言---------

「しかめる」というのは、「顔をしかめる(顰める)」の「しかめる」ではなく、「如(し)く」(及ぶ、匹敵する)+ 「あめり」(あるみたいに見える~)の連体形=「しく+あめる」=「しかめる」、認められるように見える、という感じかと思います。

「陣屋」というのはよく出てきますが、警固の人の詰め所です。思ったとおりです。 転じてと言うか、時代が移って江戸時代あたりになると、城をもたない小大名や交代寄合の屋敷のことを意味するところに至るんですね。

「おぼろげ」というのは、はっきりしないさま。不確かなさまを言います。ここでは反語法で使われていますから、逆の意味、つまり絶対的だとか、並外れてるとか、尋常ではないとかっていう様子を表しているのでしょう。

大僧正以上は緋色、僧正は紫、僧都以下は赤、下っ端の僧は黒と定められていたらしいですね。


道隆が見回すと…という状況でしょうか。
当時は身分の低い者ほど正装しなければなりませんでした。それが礼儀だったらしいですね。しかし、⑳のとおり最上級の中宮定子が正装でキメてますから、母とは言っても道隆の上の方(妻)が裳の上に小袿という略式では失礼にあたります。道隆は暗にそれを揶揄しているようですね。そして、娘のハレの姿を想って感極まって泣いてしまったといったところでしょう。
しかし、場の雰囲気が…しんみりしてしまい、とっさに清少納言に「もしや赤い服収集マニア?」と変なボケをかまします。関白には誰もツッコめずいたところ、定子の兄で道隆の息子の大納言・伊周がツッコミ?を入れます。というか、清少納言の「清」を取って「清僧都のものかも?」と言ったのはボケ返しですかね。Wボケ。笑い飯とかジャルジャルのやつです。あれほどは高度ではないですが。

この段もあと少しです。㉔に続きます。


【原文】

 入らせ給ひて見奉らせ給ふに、みな御裳・御唐衣、御匣殿までに着給へり。殿の上は裳の上に小袿(こうちぎ)をぞ着給へる。「絵にかいたるやうなる御さまどもかな。今一人は、今日は人々しかめるは」と申し給ふ。「三位の君、宮の御裳脱がせ給へ。この中の主君(すくん)には、わが君こそおはしませ。御桟敷の前に陣屋据ゑさせ給へる、おぼろげのことかは」とてうち泣かせ給ふ。げにと見えて、みな人涙ぐましきに、赤色に桜の五重の衣を御覧じて、「法服の一つ足らざりつるを、にはかにまどひしつるに、これをこそ返り申すべかりけれ。さらずは、もしまた、さやうの物を取り占められたるか」とのたまはするに、大納言殿、少ししぞきてゐ給へるが、聞き給ひて、「清僧都のにやあらむ」とのたまふ。一言(ひとこと)としてめでたからぬことぞなきや。