枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

関白殿、二月二十一日に④ ~御文は、大納言殿取りて~

 帝のお手紙は大納言殿(伊周=道隆の長男=定子の兄)が受け取って関白殿にお渡しになると、関白殿は上包みを引き解いて、「拝見したいお手紙ですね。お許しがいただけるなら、開けて読んでみたい」っておっしゃったんだけど、「さすがにそれは危っかしいと思っておられるんでしょうね。帝にも畏れ多いことだしね」ってお渡しになるのを、定子さまはお受け取りになっても広げようともなさらないでいらっしゃるお心づかい、それは誰にでもできることではないわ。
 御簾の中から女房がお使いの者に敷物をさし出して、三、四人御几帳のところに座ってるのね。「あっちに行って、お使いの者にご褒美の用意をしよう」と関白殿がお立ちになった後、定子さまはお手紙をお読みになるの。ご返事は紅梅の薄様の紙にお書きになって、お召物の同じ紅梅の色にいい感じでフィットしてるんだけど、やっぱりこういうのをご推察申し上げる人は他にいないんじゃないかな?って思うと、残念だわ。
 「今日のは特別に」ってことで、道隆さまのほうからお使いの者に褒美をお出しになるの。女の装束に紅梅の細長が添えてあるのね。肴なんかもあるから、お使いを酔わせたいとは思うけど、「今日は大切なことの担当者でございます。わが君、どうかご容赦ください」って、大納言殿にも申し上げて席を立ったわ。


----------訳者の戯言---------

「細長」というのは、「袿(うちき/うちぎ)」に似てるんですが、が大領(おおくび)(=衽(おくみ))がなく、細長い形をしており、小袿(こうちき)の上に着てふだん着とする衣だそうです。
で、その、そもそもの袿ですが、主に女性が着る長い上着で、男性が中着として着用する場合もあるらしい。どっちかというとカジュアルウェアのようです。

小袿(こうちき)というのも、平安時代以降の女房装束で、所謂十二単 (じゅうにひとえ) の略装です。唐衣と裳の代わりに表着 (うわぎ) の上に着たものなんですね。準正装で、日常着でもあったようです。今で言うとスーツではなく、ワンピースみたいな感じでしょうか。
それにしても着ますね。いつも思いますけど重ね着しすぎです、平安時代。エアコン無いから寒いんでしょうけど、それにしてもですよ。夏はどやねんという話です。ただ、レイヤードスタイルならではのオシャレ感はありますね。


宮中からやってきた式部の丞なんとかっていう人は帝からのお手紙を持って来たんですね。もちろん后の定子宛てのやつです。
それを見たいんだけど、やめとくわーという父・道隆。当たり前じゃボケ!!と私などは思いますが、まずそれを堂々と言ってしまう道隆の厚顔無恥さ。共感性羞恥心に苛まれます。
しかも。それを受け取って読まずにキープする定子が何やら尊い感じに書かれていますが、それは当然であって、デリカシーのカケラも無い我が親父にあきれ果て、今開けたらオヤジに絶対読まれる、ヤベーし。と思ったのは普通の感覚ですよ。

さすがにようやくオヤジも気づいたのか、席を外します。

定子さまのいかしてるセンスとか、もっとみんなわかってていんじゃね? 実はそういうのわかってるのって私たちしかいないんじゃない??という、清少納言おなじみの小自慢が入ってくるという展開です。
式部の丞は仰せつかった仕事ですから、お酒は断って当然だと思いますよ。むしろ出す方が悪い。非常識ですね。
⑤に続きます。


【原文】

 御文は、大納言殿取りて殿に奉らせ給へば、引き解きて、「ゆかしき御文かな。ゆるされ侍らば、あけて見侍らむ」とはのたまはすれど、「あやふしとおぼいためり。かたじけなくもあり」とて奉らせ給ふを、取らせ給ひても、ひろげさせ給ふやうにもあらずもてなさせ給ふ、御用意ぞありがたき。

 御簾の内より女房褥(しとね)さし出でて、三四人御几帳のもとにゐたり。「あなたにまかりて、禄のことものし侍らむ」とて立たせ給ひぬるのちぞ、御文御覧ずる。御返し、紅梅の薄様に書かせ給ふが、御衣の同じ色に匂ひ通ひたる、なほ、かくしもおしはかり参らする人はなくやあらむとぞ口惜しき。今日のはことさらにとて、殿の御方より禄は出させ給ふ。女の装束に紅梅の細長添へたり。肴などあれば、酔はさまほしけれど、「今日はいみじきことの行事に侍り。あが君、許させ給へ」と、大納言殿にも申して立ちぬ。