枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

関白殿、二月二十一日に⑧ ~掃部司参りて~

 掃部司(かもんづかさ)のスタッフが参上して、御格子をお上げするの。主殿司(とのもりづかさ)の女官がお掃除なんかに来て作業が終わった後、定子さまが起きられたんだけど、桜の花が無くなってるもんだから、「あら、びっくりだわ。あの桜の花の木はどこに行っちゃったのかしら?」っておっしゃるのね。「夜明け前に『花盗人がいる!』って言ってたようだけど、やっぱり枝なんかを少し取るのかな?って聞いてたんだけど。誰がしたのかしら? 見たの?」っておっしゃるの。
 「いえ、誰が取ってしまったかはわからないんです。まだ暗くてよく見えなかったので。白い感じの者がおりましたから、花の咲いてる枝を少し折るんだろうかな?って、心配だから声は掛けたんですよ」って、私申し上げたのよ。
 「それでも、全部、こんなに? どうやって取るんでしょう?? 関白殿(父・道隆)が取って隠しちゃったんでしょうね?」ってお笑いになるから、「いいえ、まさかそんなことはないかと。春の風のしたことでございましょう」と申し上げたら、「そう言おうと思って隠したのね。盗みじゃなくって、すごくいい風情のものってことなのね」っておっしゃったのも、さりげない言葉だけど、すごく素晴らしいの。


----------訳者の戯言---------

掃部司(かもんづかさ/かもんづかさ/そうぶし)というのは、大蔵省に属して宮中の掃除や儀式の設営のことをつかさどった部署だそうです。また、その役所の職員のことをこのように言いました。

主殿司(とのもりづかさ/とのもづかさ)というのは、主殿寮 (とのもりょう) に仕える職員。主殿寮とは律令制で、宮内省に属し、宮中の清掃、灯燭 (とうしょく) ・薪炭など火に関すること、行幸時の乗り物、調度の帷帳などのことをつかさどった役所でした。ここでは、女官=女性スタッフが朝の清掃をしたようです。

「あさまし」は「あきれちゃう」「情けねー」「あれれびっくりだわ」といったニュアンスがある語です。現代語の「あさましい」のもとになった語ではありますが、意味はずいぶん違いますね。

「あかつき」は未明のこと。まだ暗い夜明け前の朝です。「あけぼの」よりは前の時間帯と言われています。


定子は今頃起きてきたんですね。たしか早朝に一度起きたように思いましたが、二度寝したんですかね。
そして。何か「花盗人がいる」とか言ってたみたいだけど、桜が無くなってる…。と、まさに寝ぼけたようなこと言ってます。ホントは知ってたんじゃないの?と疑う私。
だって、桜の木ぶったおして持ってっちゃったんですから。気付くでしょ普通。もし気づいてなかったら、どんだけ熟睡しとんねんて話です。

というわけで、桜の木を倒して持って行っちゃうという強行に及んだ者どもの黒幕はやはり父=関白・道隆だということを察する定子、というテイ。

もちろん清少納言は知ってたわけですが、定子さまの推察すばらしい!と、またもやヨイショ気味。春の風の仕業でしょう…とか寒いことまで言う始末です。
白々しい会話を読んだ私は、なんだかなーと思いつつ…⑨に続きます。


【原文】

 掃部司(かもんづかさ)参りて、御格子参る。主殿(とのも)の女官御きよめなどに参りはてて、起きさせ給へるに、花もなければ、「あな、あさまし。あの花どもはいづち往ぬるぞ」と仰せらる。「あかつきに『花盗人あり』といふなりつるを、なほ枝など少しとるにやとこそ聞きつれ。誰がしつるぞ、見つや」と仰せらる。「さも侍らず。まだ暗うてよくも見えざりつるを。白みたる者の侍りつれば、花を折るにやと後ろめたきに言ひ侍りつるなり」と申す。「さりとも、みなは、かう、いかでかとらむ。殿の隠させ給へるならむ」とて笑はせ給へば、「いで、よも侍らじ。春の風のして侍るならむ」と啓するを、「かう言はむとて隠すなりけり。盗みにはあらで、いたうこそ、ふりなりつれ」と仰せらるも、めづらしきことにはあらねど、いみじうぞめでたき。