枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど④ ~御手水まゐる~

 で、お清めの水が差し上げられるの。あちらの方(淑景舎の方)のは、宣耀殿、貞観殿を通って、童女2人と下仕4人で持って参るようだわね。唐廂(からびさし)よりこちら側の廊下には女房が6人ほど待機してるの。狭いってことで、半分はお送りをして、あとはみんな帰っちゃったわ。童女の桜襲ねの汗衫(かざみ)、萌黄色、紅梅色のなんかの着物がとってもよくて、汗衫の裾を長く引いて、お清めの水を取り次いで差し上げる様子は、すごく優美な感じがするわね。織物の唐衣を御簾からはみ出させて、相尹(すけまさ)の馬頭(うまのかみ)の娘の少将、北野宰相の娘の宰相の君なんかが、廊下の近くに座ってるのよ。
 いい感じだなって見てたら、こっちの定子さまのお清めの手水は、当番の采女が青色の裾濃(グラデーション)の裳、唐衣、裙帯(くたい)、領布(ひれ)なんかを着けて、顔をすごく白くして。下仕えなんかが取り次いで差し上げる様子は、これまた折り目正しくって、中国風で素敵なの。


----------訳者の戯言---------

「手水」は文字通り、手洗い用の水。トイレのことをあらわす場合もあります。転じて用を足すことを言う場合もあるようですね。ここでは、高貴な方が使う「朝のお清めの水」という意味になります。

唐廂(からびさし)というのは、軒先を唐風にそらせた屋根とのこと。外国風でいかしたデザインの屋根が所によってはあったんでしょうね。

桜襲ねというのは、表地は白で、裏地が二藍(藍+紅、つまり紫系の色に染めた生地)の衣です。ここでは汗衫(かざみ)をこの布地で作っていたようです。
汗衫は女児の上着だそうです。詳しくは「あてなるもの」の「訳者の戯言」に詳しく書いてます。ご参照ください。

「唐衣(からぎぬ)」というのは、当時の女性の装束である十二単衣のいちばん上に着た衣です。
「織物」とありますね。衣なんだから全部織物じゃん!紙のがあるのかよ!?と思ってしまいますが、当時「織物」というのは高級な紋織物を特に指して言ったみたいですから、間違いというわけではありません。おおよそ、経糸緯糸に、異なる色糸を使用して織りあげた織物のことだそうで。地色と文様とが違った色ではっきりと表現されるようですね。いろいろな織り方、色々を駆使したものですから、やはり高級なんでしょう。

采女(うねべ/うねめ)とは、天皇や皇后の食事など、身の回りの雑事を専門に行う女官のことだそうです。

「裾濃(すそご)」は裾が濃くなっていくグラデーション柄です。ここでは青色のグラデですね。「裳」もすぐ前の記事(③)に出てきました。

領布(ひれ)とは、両肩に掛けて左右へ垂らした長い帯状の布です。
裙帯(くたい)といって、女官の正装の時、装飾として、裳の左右に長く垂らした紐があったらしく、その紐のことを言いました。

そして。
朝早い時間帯、お清めの水が差し上げられるんですね。さすが皇族。貴族もか? いずれにしても我々のようにわざわざ自分で洗面室に行って手を洗ったりはしません。スタッフが持ってきてくれるんですね。描写にあるとおり、もはや儀式です。贅沢というか、スタッフ、こんなに必要ですか?
⑤に続きます。


【原文】

 御手水まゐる。彼の御方のは、宣耀殿、貞観殿を通りて、童女二人下仕四人して持てまゐるめり。唐廂(からびさし)のこなたの廊(らう)にぞ女房六人ばかり候ふ。狭しとて、片方は御送りして、皆帰りにけり。桜の汗衫、萌黄、紅梅などいみじう、汗衫長く引きて、取り次ぎまゐらする、いとなまめかし。織物の唐衣どもこぼれ出でて、相尹(すけまさ)の馬の頭(かみ)のむすめ、小将、北野宰相の女、宰相の君などぞ近うはある。をかしと見るほどに、こなたの御手水は、番の釆女の青裾濃(すそご)の裳、唐衣、裙帯、領巾などして、面いと白くて、下など取り次ぎまゐるほど、これはた公(おほやけ)しう唐めきてをかし。


検:淑景舎、春宮にまゐりたまふことなど 淑景舎、東宮にまゐりたまふことなど

 

枕草子 (すらすらよめる日本の古典 原文付き)

枕草子 (すらすらよめる日本の古典 原文付き)