枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど③ ~さて、ゐざり入らせ給ひぬれば~

 さて、定子さまが擦り膝でお入りになったから、そのまま屏風に寄り添って覗いてたんだけど、「良くないわ、後ろめたい行いだわね」って、聞こえるかのようにこっそり言う人たちもいて。おもしろいわね。障子がとても広く開いてるから、中の様子はすごくよく見えるの。お母様の貴子さまは、白い上着、張って艶を出した紅色の衣を二枚ほどに、女房の裳なのかしら?を、引っ掛けて、奥に寄って東向きにいらっしゃるから、お着物だけは見えたのよね。淑景舎さまは、北に少し寄って南向きにいらっしゃるの。紅梅色の濃い打衣、薄い打衣をたくさん着て、上に濃い綾織の衣、少し赤い小袿は蘇芳色の織物、萌黄色の若々しい固紋の衣をお召しになって、扇でお顔をすっと隠されてて、ほんと、とっても立派で美しい様子を見せていただけたわ。お父様は薄色の直衣、萌黄色の織物の指貫、紅色の衣を重ね着して、紐を締め、廂の間の柱に背中を当ててこちら向きにいらっしゃるの。で、姫君たちの立派な様子を見て微笑みながら、いつものように冗談をおっしゃってるのよね。淑景舎さまがすごくかわいくって、絵に描いたように座っていらっしゃるんだけど、定子さまはとっても落ち着いてらして、少しばかり大人っぽい雰囲気でいらっしゃるんだけど、紅色の衣が光り輝いて映えてるご様子は、やっぱりこの方と比べられる人っているかしら? いえいえ、いないわ、って思わせられるの。


----------訳者の戯言---------

原文の「上」というのは文脈からして、定子さまの母上=藤原道隆の奥方ということがわかります。

裳というのは、表着(上着)のもう一つ外側に着る衣。「腰から下につけ、後ろへ長く引いた衣装」です。

小袿(こうちぎ)貴族女子のなかでも特に高位の女性が着る上着だそうです。

蘇芳」というのは、文字通り蘇芳というインド・マレー原産のマメ科の染料植物で染めた黒味を帯びた赤色とのこと、だそうです。

薄色」は単に薄い色ではなく、色の名前。やや赤みのあるとても薄い薄紫です。

こっそり覗いて、姉妹と父母、家族4人のファッションチェックをする清少納言藤原道隆は冗談とか言ってるらしい。たぶんおもしろくないだろうと思いますが、貴族一家ですから、笑うんでしょうね。

で、結局は、定子さまサイコー!となります、清少納言
そして④に続きます。


【原文】

 さて、ゐざり入らせ給ひぬれば、やがて御屏風に添ひつきて覗くを、「あしかめり、後ろめたきわざかな」と聞こえごつ人々もをかし。障子のいと広うあきたれば、いとよく見ゆ。上は、白き御衣ども紅の張りたる二つばかり、女房の裳なめり、引きかけて、奥に寄りて東向におはすれば、ただ御衣などぞ見ゆる。淑景舎は北に少し寄りて、南向におはす。紅梅いとあまた濃く薄くて、上に濃き綾の御衣、少し赤き小袿、蘇枋の織物、萌黄のわかやかなる固紋の御衣奉りて、扇をつとさし隠し給へる、いみじう、げにめでたく美しと見え給ふ。殿は薄色の御直衣、萌黄の織物の指貫、紅の御衣ども、御紐さして、廂の柱に後ろを当てて、こなた向きにおはします。めでたき御有様を、うち笑みつつ、例の戯言せさせ給ふ。淑景舎のいとうつくしげに絵に書いたるやうにゐさせ給へるに、宮はいとやすらかに、今少し大人びさせ給へる御けしきの、紅の御衣にひかり合はせ給へる、なほ類ひはいかでかと見えさせ給ふ。


検:淑景舎、春宮にまゐりたまふことなど 淑景舎、東宮にまゐりたまふことなど