枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

中納言殿まゐり給ひて

 中納言殿(藤原隆家)が定子さまのところに参上されて、扇を献上なさる時、「私、隆家はすごくいい扇の骨を入手しました。それに紙を張らせて差し上げようと思うんですが、いい加減な紙は張ることができないですから、今探してるところなんです」と申し上げなさったの。「どんな骨なの?」って定子さまがご質問なさったら、「何もかも全部すばらしいんです。『かつて今まで見たこともないような骨の様子ですわ』ってみんな申しております。ほんとにこれほどのものは見たことがありません」って声高におっしゃるから、「だったら、扇のじゃなくってクラゲの骨ですわね」って私、申し上げたら、「それは隆家が言ったことにしましょう」ってお笑いになるの。

 こういった類の話は、気の毒な、いたたまれないことのカテゴリーに入れるべきなんだけど、人が「一言も書き落とすな」って言うから、どうしたものでしょうかね??


----------訳者の戯言---------

まず、藤原隆家という人ですが、中宮定子のすぐ下の弟です。「無名といふ琵琶の御琴を」の段で出てきた原子や隆円の兄にあたります。

朧げ(おぼろげ)。はっきりしないさま。不確かなさまを表すそうです。

「かたはらいたき」は、心苦しい、いたたまれないという意味。「かたはらいたきもの」の段で解説させていただきましたね。

うまいこと言ったの、パクられそうになりましたが、結局全部バラしちゃいました。ひどすぎる。隆家がカワイソすぎると私は思います。しかも誰かに「全部書いとけ」って言われたから仕方なく書いてます、って。
言い訳しても、書くか書かないかは、清少納言次第ですからね。本当に彼女が慎ましい人ならここまで書かんでしょう。もしくは。本人の希望どおり隆家が言った体で書いてやれと思います。それがオトナってもんだ。


【原文】

 中納言殿まゐり給ひて、御扇奉らせ給ふに、「隆家こそいみじき骨は得て侍れ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろげの紙はえ張るまじければ、求め侍るなり」と申し給ふ。「いかやうにかある」と問ひ聞こえさせ給へば、
「すべていみじう侍り。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ」と言高くのたまへば、「さては扇のにはあらで、海月(くらげ)のななり」と聞こゆれば、「これは隆家が言にしてむ」とて、笑ひ給ふ。

 かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つな落としそ」と言へば、いかがはせむ。

 

検:中納言殿まいり給ひて 大納言殿参り給ひて