枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

十月十余日の月の

 十月十日過ぎの月がすごく明るい夜、歩いて見ようって、女房15、6人ほどがみんな濃い紫色の衣を上に着て、裾を折り返してたんだけど、中納言の君が紅の衣を糊で板張りにしたのを着て、首のところから髪を前に持ってきていらっしゃるのが残念だわ。卒塔婆(そとば)にすごくよく似てたのよね。「雛のすけ(人形のような典侍)」って若手の女房たちはあだ名をつけたの。後ろに立って笑っても、本人は気づかないのよ。


----------訳者の戯言---------

10月というと秋っぽいですが、それほどずれてはないかもしれませんけれど、旧暦ですから冬のはじまりという感じです。そんなある日の夜のお話しです。


この時代の「濃(こき)」とか「濃色(こきいろ)」とかいうのは、単に濃い色というわけではなく、濃い紫色の糸で織ったものを言ったようです。このことについては、「南ならずは東の廂の板の」の段にも書きましたので、よろしければご覧ください。

中納言の君」は女房の一人です。「ねたきもの」や「関白殿、黒戸より出でさせ給ふとて②」にも出てきました。

「あたらし」は、「惜し」と書くんですね。「もったいない」「惜しい」という意味になります。波田陽区の「残念~!!」みたいな感じでしょうか。先日、オリンピックで卓球混合ダブルスの水谷・伊藤ペアが金メダルをとったんですが、波田陽区SNSで水谷選手の顔真似コスプレで祝福してましたね。どうでもいい情報ですが。
波田陽区の「残念~」よりも、むしろ千原ジュニアがせいじのことを「うちに残念な兄がいてましてー」と言ってるあれに近い「残念」かもしれません。体が残念、顔が残念、髪型が残念、着てるものが残念、頭が残念、いろいろ使います。最近は「ざんねんないきもの事典」というのもバズってるらしいですね。でも、いずれもちょっとしたディスリスペクト語ですね。

卒塔婆(そとば)というのは、元々は仏舎利を安置し、供養などするための建造物のことを総称して言いました。仏塔のことなのですね。五重塔とか三重塔、多宝塔とかももちろん含まれます。で、今は卒塔婆というと、仏塔の形に似せて作った長細い板みたいなのを指すことが多いです。お経とかが書いてある、お葬式とか法事とかで見かけるあれです。

卒塔婆といえば、卒都婆小町(卒塔婆小町/そとばこまち)というのがありまして、これは小野小町が主人公のお話らしいですね。能楽だそうです。

そう言えば、「そとばこまち」という元々京大のサークルだった劇団もありましたね。辰己琢郎とか生瀬勝久がいたという。


話が逸れましたが、なぜ中納言の君が卒塔婆に似ているのかはよくわかりませんが、「五輪塔」というものがありまして、五輪卒塔婆とも言います。これを略して「卒塔婆」とも言います。ちょうど東京オリンピック開催中ですしタイムリーな気もしますが、内容的にはまったく違ってて、地輪、水輪、火輪、風輪、空輪の五輪なのですね。それを塔にまとめたような形の物です。で、墓標、死者を供養する塔でもあり、聖地への道しるべとしても建てられたと。

五輪卒塔婆、たしかに見ようによっては、長い髪を首に巻いた人間(人形)に見えなくもありません。それでかもしれませんね。中納言の君をちょっと小馬鹿にしている感じでしょうか。


【原文】

 十月十余日の月のいと明かきに、ありきて見むとて、女房十五六人ばかりみな濃き衣を上に着て、引き返しつつありしに、中納言の君の、紅の張りたるを着て、頸より髪をかき越し給へりしが、あたらし。卒塔婆(そとば)に、いとよくも似たりしかな。「ひひなのすけ」とぞ若き人々つけたりし。後(しり)に立ちて笑ふも知らずかし。