枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

いみじう暑きころ

 めちゃくちゃ暑い時季、夕涼み!っていう時間帯には物の様子なんかもはっきりわからないんだけど、男車が先払いをするのは言うまでもなく、フツーの人でも後ろの簾(すだれ)を上げて、二人でも一人でも乗って走らせて行くのは涼しそうだわ。ましてや琵琶をかき鳴らし、笛の音なんかが聴こえてきたのが、通り過ぎて行ってしまうのは悔しいの。そんな時に、牛の鞦(しりがい)の香りがやっぱ変で、嗅いだことのない匂いだったんだけど、いい感じに思えたのって、頭おかしいよね。
 すごく暗い闇夜に、前に灯した松明(たいまつ)の煙の香りが、車の中に漂ってるのもいい感じ。


----------訳者の戯言---------

男車というのは、男性仕様車のことと思われます。レディス・エディションではないということですね。だったら普通の車です。ただ、先払いのスタッフを付けて車を行かせること自体そこそこの身分の男性ですから、まあそういうことを言いたいだけなのでしょうね、例によって。

鞦(しりがい/尻繋)というのは、牛の胸から尻にかけて取り付け、車の轅 (ながえ)を固定させる紐というか、皮革製のものだと思います。革の匂いですか、どんな匂いがしたのでしょうか。

めちゃ暑い季節の牛車。もちろんエアコンの無い時代ですから、いろいろあります。今の車は開きませんが、リアウインドが開いてたんですね。当たり前か。で、車で琵琶弾いたり笛吹いたりしてたんですね。優雅というか、まあ、今これやったら近所迷惑で通報されます。
笛、特に横笛という楽器は携行できる楽器として認められてたようです。モバイルですね。詳しくは「笛は」をご参照ください。車では琵琶まで弾いたんですね。琵琶については「弾くものは」にも書きましたが、やはり弾くものの筆頭が琵琶でした。

松明には文字どおり松脂(まつやに)とか、松の木の樹脂の多いところとかが使われたんですね。松脂は燃えやすいですから。
松脂は滑り止めにすることでも知られていますね。ピッチャーがマウンドでポンポンするやつとか、器械体操とか。バレエのシューズにもつけるらしいですね。こうした滑り止め用のの松脂は純度が低いのであまり匂いはなさそうですが。バイオリンとかチェロとかの擦弦楽器の弓に塗るのが松脂だということもよく知られていますが、あの固形のやつは純度も高そうです。それでも匂いの強いのとあまり無いのがありますね。どういうことなのでしょう??

松明を燃やした煙の匂いは知りませんが、たしかに匂いのあるものは結構強い匂いです。私はそれほど気にはなりませんけど。でも香料にもするらしいですから、それほど悪いものでははないように思います。

相変わらず身分が高いとか低いとか、いちいち鼻につくんですよね、清少納言って。


【原文】

 いみじう暑きころ、夕涼みといふほど、物のさまなどもおぼめかしきに、男車の前駆(さき)追ふはいふべきにもあらず、ただの人も後(しり)の簾(すだれ)あげて、二人も、一人も、乗りて走らせ行くこそ涼しげなれ。まして、琵琶掻い調べ、笛の音など聞こえたるは、過ぎて往ぬるも口惜し。さやうなるは、牛の鞦(しりがい)の香の、なほあやしう、嗅ぎ知らぬものなれど、をかしきこそもの狂ほしけれ。

 いと暗う、闇なるに、前(さき)にともしたる松の煙の香の、車のうちにかかへたるもをかし。