枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

宰相の中将①

 宰相の中将の斉信(ただのぶ)、宣方(のぶかた)の中将、道方の少納言あたりの面々が参上なさって、女房たちが出ておしゃべりをしてた時、いきなり、「明日はどんなことを?」って言ったら、少しも考え込むことなく即座に「『人間の四月』をやりますよ」ってお答えになったのは、すごくカッコよかったわ。もう過ぎ去ってしまったことなのにちゃんと覚えてて言うのは、誰だって素敵で、中でも、女はそんな物忘れはしないのに、男はそうでもなくって、自分が詠んだ歌なんかでもうろ覚えなのに、宰相の中将(斉信)はホント素敵。御簾の内の女房たちも、外の殿上人たちも、理解不能~、って思ってるのも、もっともなことね。


----------訳者の戯言---------

宰相の中将、斉信(ただのぶ)というのは藤原斉信、もはや枕草子では定番の美男子にして、おしゃれ、インテリジェンスもあり、遊び心もあって、さらに官人としても有能で「一条朝の四納言」の一人とされています。女子にはモテモテの人ですね。

宣方(のぶかた)の中将は、源宣方。「頭の中将の、すずろなるそら言を聞きて」ではおしゃべり男として登場しました。そもそも「頭の中将の、すずろなるそら言を聞きて」の段というのも、藤原斉信清少納言のやりとりの顛末を主に描いたものでしたね。

道方(みちかた)は、源道方という人です。枕草子では琵琶の名手としてこれまでに1度登場しています。それ以外のことはあまり知りません。

「人間の四月」って何? 小説のタイトルですか?「人間の証明」みたいな。「四月は君の嘘」とかいうコミック、アニメ、実写版の映画もありました。結構、純文学的ですね。
と思ったんですが、調べてみると、違いました。当然ですが。漢詩なんですね。白居易(白楽天)作の「大林寺の桃花」っていう詩でした。

大林寺桃花

人間四月芳菲盡
山寺桃花始盛開
長恨春歸無覓處
不知轉入此中來

人間ノ四月芳菲尽キ、山寺に桃花始メテ盛ニ開ク。長恨ス、春帰リテ覓ムル処無キヲ。知ラズ、転ジテ此ノ中ニ入リ来タルヲ。ってことなんですが、世の中はもう初夏でかぐわしい花は散って無くなったけど~みたいな詩です。これを吟じるって予定にしたわけですね、モテモテ男前の斉信。今なら、明日のカラオケで何歌うん?って聞いたら、俺、米津玄師の「Lemon」歌うわ。とか、髭男の「Pretender」歌うわ。とかの感じですか。

いや、それとはたぶん違います。カラオケみたいにモニターもないですしね。みんな、わけわからん、って言うぐらいの素敵さですから、もっと、インテリジェンスの含みがある感じでしょうか。ほんまか。何せ、ルックスだけでなく才能抜群、あらゆる意味でオトコマエな藤原斉信サマですから、この後どういう展開になるか楽しみです。
②に続きます。


【原文】

 宰相の中将斉信(ただのぶ)・宣方(のぶかた)の中将、道方の少納言など参り給へるに、人々出でてものなどいふに、ついでもなく、「明日はいかなることをか」といふに、いささか思ひまはしとどこほりもなく、「『人間の四月』をこそは」といらへ給へるがいみじうをかしきこそ。過ぎにたることなれども、心得ていふは誰もをかしき中に、女などこそさやうの物忘れはせね、男はさしもあらず、よみたる歌などをだになまおぼえなるものを、まことにをかし。内なる人も外(と)なるも、心得ずと思ひたるぞことわりなる。

 

まんがで読む 枕草子 (学研まんが日本の古典)

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  • 発売日: 2015/03/17
  • メディア: 単行本