枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

故殿の御服の頃② ~左衛門の陣までいきて~

 左衛門の陣まで行って、転げて騒ぎ回った人もいたみたいだけど、「これはやっちゃだめなことですね。上達部がお座りになる椅子なんかに女房たちが上って、政官なんかの座る床子を全部倒して壊しちゃいましたよ」なんて、マジメに諭す人たちもいるんだけど、聞き入れないのよね。

 建物はすごく古くて、瓦ぶきだからかしら、暑さはこの世で未経験っていうぐらいなもんだから、御簾の外に夜も出て来て寝てるの。古いところだから、ムカデっていうものが一日中落ちてくるし、蜂の巣の大きいのに蜂がたかってるのなんか、すごく恐ろしいわ。

 殿上人が毎日参上して、徹夜でおしゃべりするのを聞いて、
「豈にはかりきや、太政官の地の今やかうの庭とならむことを」(知らなかったなぁ、太政官っていう場所が、今は夜遊びの庭になるとはね)
って、吟じ出したのはおもしろかったわね。

 秋になったけど、片側だけも涼しくならない風しか吹かない、そんな場所柄みたいなんだろうけど、さすがに虫の声なんかは聞こえたの。八日に定子さまは宮中にお帰りになったから、七夕祭はここでしたんだけど、いつもより近く見えるのは、スペースが狭いからなんでしょうね。


----------訳者の戯言---------

上官=政官(じょうがん/しょうかん)というのは、太政官の事務方スタッフです。太政官というのは、今で言うと、立法、司法、行政のすべてを司る最高国家機関です。内閣と衆参院最高裁判所を兼ね備えたものと言う感じですね。

床子(しょうじ)というのは、昔、宮中などで使ってた腰掛けのことだそうです。板に脚をつけたシンプルな形で、背もたれとかはなく、敷物を敷いて使ったそうです。スツールですね。事務方の職員はこっちを使っていたんでしょう。
先に出てきた「椅子」は、もう少しデラックスですね。鳥居形の背もたれと勾欄(こうらん/高欄)形のひじ掛けがあり、敷物を敷いて用いたそうです。勾欄(高欄)というのは、欄干のことです。上達部はこちら、つまりチェアを使っていたのでしょう。

やこう(夜行)というのは、夜回りの意味もありますが、夜遊びのことも言ったらしいです。ここでは夜遊びのことでしょうか。

ちなみに旧暦の6月末は真夏です。2019年の例だと7月31日、今年2020年は、閏月が入ったので8月18日となっています。
この時は6末から7月8日まで滞在したようですね。真夏の約1週間、いつもと違う所にやってきて、はしゃいじゃってる女房たち。修学旅行か、女子旅でハメを外している感じです。喪中なのに。
書いたのは後年ですから、当たり前ではありますが、清少納言は少し引いて見ている感じですね。


【原文】

 左衛門の陣までいきて、倒れさわぎたるもあめりしを、「かくはせぬことなり。上達部のつき給ふ椅子(いし)などに女房どものぼり、上官などのゐる床子(さうじ)どもを、みなうち倒し、そこなひたり」などくすしがる者どもあれど、聞きも入れず。

 屋のいとふるくて、瓦ぶきなればにやあらむ、暑さの世に知らねば、御簾の外(と)にぞ夜も出で来、臥したる。ふるき所なれば、むかでといふもの、日一日おちかかり、蜂の巣の大きにて、つき集まりたるなどぞ、いとおそろしき。

 殿上人日ごとに参り、夜も居明かしてものいふを聞きて、「豈(あ)にはかりきや、太政官の地の今やかうの庭とならむことを」と誦(ず)じ出でたりしこそをかしかりしか。

 秋になりたれど、かたへだに涼しからぬ風の、所がらなめり、さすがに虫の声など聞こえたり。八日ぞ帰らせ給ひければ、七夕祭、ここにては例よりも近う見ゆるは、程のせばければなめり。

 

新潮日本古典集成〈新装版〉 枕草子 上

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