枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

位こそなほめでたき物はあれ

「位」っていうのは…。やっぱりすばらしいものだよね! 同じ人でも、大夫の君、侍従の君とかって申し上げる時は、結構侮りがちなんだけど、中納言、大納言、大臣とかにおなりになったら、やたらと邪魔するものもなくなって、ご立派にお見えになることと言ったら、この上ないわ。ほどほどの身分の者では、受領なんかもみんなそんな風な感じでしょ。いろいろな国に赴任して、大弍や四位、三位なんかになったら、上達部とかもハイクラスの人材だって扱ってくださるみたいね。

 女性はやっぱり冷遇されるものなの。宮中では、御乳母(おんめのと)は内侍典、三位なんかにまでになると重々しいけど、とは言っても、年を取り過ぎちゃったら、どれほどのことがあるんでしょ。また、多くあることでもないし。
 受領の北の方(奥方)になって任国に下るのを、ほどほどの身分の人にとっての最高の幸せだって思って、褒めたたえてうらやましがるみたいね。普通の人が上達部の奥方になったり、上達部のお嬢様がお妃様におなりになるのは、さらにすばらしいことでしょう。

 だけど、男性はやっぱり若い時に出世するのが、すごくすばらしいことだわね。
 僧侶なんかが、ナントカって肩書を言って歩き回っても、何何?って思うかな?全然思わないわよ! お経を尊く読んで、ルックスが綺麗であったとしてもね、女房には侮られて、外見でちやほや騒がれるっていうのはあるかもだけど、それだけよね。僧都や僧正になったら、仏様がお姿を現わされたみたいに怖れて、うろたえちゃって、恐縮してしまう様子っていうのは、何に似てるかしら? 言い表しようもないわね。
 

----------訳者の戯言---------

大弍(だいに)ですが、大宰府の次官(すけ)のうち、最上位のものをこう言いました。大宰府のトップは大宰帥ですが、その権官大宰権帥が、実質的な大宰府の長官でありました。その大宰権帥大宰府の次官である大宰大弐を同時には任命できない慣習があったそうですから、大弍が実質的なトップというケースもあったようです。従四位下相当ですから、もう少しで上達部ですね。

完全に女性は職位的には冷遇されていますと。平安時代ですから、普通に男尊女卑。男女雇用機会均等法が1986年施行ですから、まあ、それまではこんなものです。最近じゃないですか。ほんまか。

御乳母(おんめのと)。昔は特に貴人の場合は、乳児に母親に代わって乳を与える乳母を召し使ったようですね。 身分の高い人間は子育てのような雑事を自分ですべきではないという考えがあったり、しっかりとした女性に任せたほうが教育上もいいという考えもあって、乳離れした後で母親に代わって子育てを行う人のことも乳母といいました。
ここでは帝(東宮)の乳母です。

北の方(きたのかた)。北方四島とかの北の方のことではありません。よく聞きますけどね「北の方」。良家の奥方のことです。
貴族の一般的な住宅は寝殿造だったんですが、主殿のほかに別棟=対屋を建てました。おおむね北の別棟に奥方が住むことが多かったので、こういう風に言ったようです。

清少納言はご存じのとおり、階層意識のきわめて高い人なもので、今回のテーマは大好物。やはり、名家のおぼっちゃま君たちが若いうちに出世するの、サイコー!と言ってます。けど、これはある程度の家格がないと、実力だけではどうにもなりません。
女性の出世については、ちょっと不満そうではありますね。

逆に僧侶は完全に見下してますね、清少納言。さすが差別主義者。いえ冗談です。
思はむ子を」という段でも、「子どもを僧侶にするなんて…」と書いてますから、「ちょっとー、お坊さん? ん、なんか肩書あってもねーwwだわw 僧都や僧正は別だけど」的な感じです。
兼好法師徒然草の「第一段 いでや、この世に生れては」でお坊さんのことをかなり自嘲、自虐していますしね。昔の人は、僧侶について案外ないがしろです。
で、清少納言、少し前「法師は」では、律師、内供がいい!と書いてましたけど、ここではやはり僧都や僧正押しです。ここまでくると、急に生き仏のレベルなんですね。けど、それってやっぱり肩書に惑わされてません?

整理すると。
中納言、大納言、大臣クラス。女性はあんまり。一般人が上達部の奥方になるか、娘が后妃になるかぐらいでないとね。男は若くして出世すること。僧侶は僧都や僧正のクラスなら生き仏。という感じです、清少納言。さすが。


【原文】

 位こそ なほめでたき物はあれ。同じ人ながら、大夫の君、侍従の君など聞こゆる折は、いとあなづりやすきものを、中納言・大納言・大臣などになり給ひては、むげにせくかたもなく、やむごとなうおぼえ給ふことのこよなさよ。ほどほどにつけては、受領などもみなさこそはあめれ。あまた国に行き、大弍や四位・三位などになりぬれば、上達部などもやむごとながり給ふめり。

 女こそなほわろけれ。内裏(うち)わたりに、御乳母(めのと)は内侍のすけ、三位などになりぬればおもしろけれど、さりとてほどより過ぎ、何ばかりのことかはある。また、多くやはある。受領の北の方にて国へ下るをこそは、よろしき人のさいはひの際と思ひてめでうらやむめれ。ただ人の、上達部の北の方になり、上達部の御むすめ、后にゐ給ふこそは、めでたきことなめれ。

 されど、男はなほ若き身のなり出づるぞいとめでたきかし。法師などのなにがしなど言ひてありくは、何とかは見ゆる。経たふとく読み、みめ清げなるにつけても、女房にあなづられて、なりかかりこそすめれ。僧都・僧正になりぬれば、仏のあらはれ給へるやうに、おぢ惑ひかしこまるさまは、何にか似たる。