枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

蟻通の明神④ ~ほど久しくて~

 そのあと、しばらく経ってから、小さい玉に七曲りに曲がりくねった穴が中を通って左右に貫通してるのを献上されて、「これに糸を通していただけますか、私たちの国ではみんなやってることです」って奏上したんだけど、「どんな熟達の者だってお手上げですよ」って、そこらへんの上達部や殿上人、世の中のありとあらゆる人が言ってたから、また親のところに行って、「こうなんですよ」って言ったら、「大きい蟻を捕まえて二匹ほどの腰に細い糸をつけて、またそれにもうちょっと太い糸をつけて、あっち側の口に蜜を塗って見てみ」って言ったから、彼はまたそのとおり申し上げて蟻を入れたら、蜜の香りを嗅いで実際すごく速く反対側の口から出てきたの。そして、その糸が通ってる玉を送り返した後に「やはり日本の国は賢かった」って、中国の皇帝もその後はそんなことはしなくなったのね。


----------訳者の戯言---------

七曲(ななわた/ななわだ)と原文に出てきます。元々の意味は、道や坂などが何重にも折れて曲がっていることをこう表したそうです。七曲(ななまがり)とも読みます。以前「つづら折り」という言葉が出てきましたが、それと同義ですね。
七曲りに曲がりくねってる玉? というよりも中にくねくねの穴が通ってるんでしょう。その玉の穴に糸を通せと。

しかしむしろ、そんな玉つくるほうが難しくないですか?
曲がりくねった穴を玉の中に空けて通すってどんなハイテクやねん!って思います。よくわかりませんが、最新3Dレーザー加工機とかでないと無理じゃないんですか、そんなこと。しかし、なんか中国の工芸技術も凄いですからね。ゴイゴイスー。翡翠の彫刻とか見たことありますけど、なんか、めちゃくちゃ複雑なの彫ってますから、あり得ますか。

さて久しぶりに上達部と殿上人について書いておきます。

上達部(かんだちめ)は三位以上の上級貴族。参議の場合は四位でもこの中に入ります。朝廷の幹部貴族で、清少納言の頃は20数人いたようです。詳しくは「上達部は」をお読みください。
殿上人(てんじょうびと)は五位以上の人および六位の蔵人でしたね。
上達部+殿上人合わせても50人にはなりません。

というわけで、蟻が出てきて糸を通しましたから、わかりました。これがこの明神=神社の名前の由来なんですね。
で、⑤完結編に続きます。


【原文】

 ほど久しくて、七曲(ななわた)にわだかまりたる玉の、中通りて左右に口あきたるが小さきを奉りて、「これに緒通してたまはらむ。この国にみなし侍る事なり」とて奉りたるに、「いみじからむものの上手不用なり」と、そこらの上達部・殿上人、世にありとある人いふに、また行きて、「かくなむ」といへば、「大きなる蟻をとらへて、二つばかりが腰に細き糸をつけて、またそれに、今少し太きをつけて、あなたの口に蜜(みち)を塗りて見よ」といひければ、さ申して、蟻を入れたるに、蜜の香を嗅ぎて、まことにいととくあなたの口より出でにけり。さて、その糸の貫ぬかれたるを遣はしてける後になむ、「なほ日の本の国はかしこかりけり」とて、後にさる事もせざりける。