宰相の中将④ ~人と物いふことを碁になして~
人とお話しすることを碁に例えて、親しく語り合うような関係になったのを、「手を許してしまったらしい」「最終局面に入った」なんて言って、「男は何目か(優位を)もらうんじゃない?」とか言うことも、他の人は知るすべもないのね。で、この君(斉信)とはその意味を共有し合ってトークしてたら、「何だ?何だ??」って源中将は付きまとってきて聞くんだけど、私は言わないもんだから、斉信さまに「ひどいな、何のことかおっしゃってくださいよ」って恨まれてね、彼も仲の良い友だちなので、その意味を教えてあげちゃったのね。
すっかり親密な関係になることを「(ゲームが終わって)晩の上の石を崩す頃だよ」なんていうの。源中将は、私も知ってる!!って早くわかってもらいたい!って、 「碁盤はありますか? 私と碁を打っていただきたい。手はどうします? 先手を許してくださいます? 頭中将とは同レベルの碁です。分け隔てしないで!」って言うもんだから、「誰とでもそんなことをしてたら、キリがないでょう?」と私が言ったのを、また源中将が斉信さまにお話ししたら、「うれしいことを言ってくれたね」ってお喜びになったわ。やっぱり過ぎ去ったことを忘れない人は、とても素敵なのよね。
----------訳者の戯言---------
結(けち)というのは、囲碁で言う「駄目」のことだそうです。で、駄目というのは、囲碁の終局時に、どちらの陣地でもない領域のことを言うそうですね。囲碁のこと知らないので初めて知りました。終局前にここへ打ったとしても、1目の価値もない点、つまり打つ価値のない場所ということだそうです。そもそもアカンことを表すダメ=駄目の語源だったんですね。
さてこの段の第二幕というか、斉信との親密ぶりをさらにアピールしてきます、清少納言。
今回は「男女の仲を囲碁に例える」の巻です。なんか、清少納言と藤原斉信の二人だけでスラング的に会話してたら、興味津々の源中将(宣方)が教えて教えてとちょっかい出してきます。ちょっと嫉妬してるんでしょうか、うらやましいのかもしれません。
で、ようやく聞き出して、清少納言に囲碁スラングで話しかけてきますが、つれない態度の清少納言。斉信サマもウェルカム、それをよろこんでいますね。二人とも、二人だけの世界を楽しんでいるかのようです。完全に彼女の中では、宣方<斉信 となってます。そりゃあ、斉信さまはいかしてるかもしれませんが、宣方をえらく下に見てませんか? 小馬鹿にしてないですか?
というわけで、源中将=源宣方がちょっと不憫。⑤に続きます。
【原文】
人と物いふことを碁になして、近う語らひなどしつるをば、「手ゆるしてけり」「結(けち)さしつ」などいひ、「男は手受けむ」などいふことを人はえ知らず。この君と心得ていふを、「何ぞ、何ぞ」と源中将は添ひつきていへど、言はねば、かの君に、「いみじう、なほこれのたまへ」とうらみられて、よき仲なれば聞かせてけり。あへなく近くなりぬるをば、「おしこぼちのほどぞ」などいふ。我も知りにけりといつしか知られむとて、「碁盤侍りや。まろと碁うたむとなむ思ふ。手はいかが。ゆるし給はむとする。頭の中将とひとし碁なり。なおぼしわきそ」といふに、「さのみあらば、定めなくや」といひしを、またかの君に語りきこえければ、「うれしう言ひたり」とよろこび給ひし。なほ過ぎにたること忘れぬ人は、いとをかし。