枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

里にまかでたるに② ~夜いたくふけて~

 すごく遅い深夜の時間帯になって、門をめちゃくちゃドンドン大げさにたたくもんだから、何だってこんなに遠慮なく、広くもない家の門をでっかい音でたたくんだろ?って思って、聞きに行かせたら、滝口の武士だったの。
「左衛門の尉(橘則光)からです」
って、手紙を持ってきてたのね。みんな寝てしまってたから、灯りを取り寄せて見たら、
「明日は季の御読経の結願の日で、宰相の中将(藤原斉信)が物忌みに籠ってらっしゃいまして。『妹の居場所を言え、妹の居場所を言え』って、責められるから、どうしようもないのです。もうこれ以上、隠し通せないので、どこにいるかお教えしても良いでしょうか? どうでしょう? おっしゃるとおりにしますから…」
って書いてあったんだけど、返事は書かずに布(め)=海藻を一寸(3cm)ほど紙に包んで使いの者に持っていかせたの。


----------訳者の戯言---------

滝口の武士」というのは、当時の内裏の警護係です。「うへに候ふ御猫は①」の解説部分にも少し詳しく書いてありますのでご覧ください。

御読経の結願とは? 御読経は「みどきょう」と読みます。正確には「季御読経(きのみどきょう)」です。
ウィキペディアでは、「季御読経は、春と秋に国家安泰を祈願して宮中に僧を招き、大般若経を転読する仏教法会である。通常4日ないし3日間の法会が開かれ、2日目に「引茶」という茶の接待が僧侶に対して行われ、3日目には僧侶同士の「論義」が行われる。ただし「引茶」と「論義」は原則春季のみであった。初日ないし最終日には法会と共に各寺院の得度を朝廷から賜る儀礼が行われた」と出ていました。

で、最終日(第4日)に結願(けちがん)=終了となる、と。そして、この最終日に「物忌」となるんですね。

「物忌」というのは前にも出てきましたが、「神事ないし凶事の非常にあたって一定期間宗教的な禁忌を守り身を慎む」期間とされています。「陰陽道の風習で凶日に外出を慎み、家に籠ること」ともありますので、そもそも仏教のものではなさそうなんですが、そのへんは以前も書いたとおりです。「御仏名のまたの日」の解説にも書きましたが、これも神仏習合の現れの一つなのでしょう。

さて、元夫の手紙に対して、先にその元夫が食べてごまかした布(め)=海藻を返事として送るという。なんとなくオチが読める展開。どうなるのでしょうか。③に続きます。


【原文】

 夜いたくふけて、門をいたうおどろおどろしうたたけば、何のかう心もなう、遠からぬ門を高く叩くらむと聞きて、問はすれば、瀧口なりけり。「左衛門の尉の」とて文を持て来たり。みな寝たるに、火取りよせて見れば、「明日御読経の結願にて、宰相の中将、御物忌にこもり給へり。『いもうとのあり所申せ、いもうとのあり所申せ』とせめらるるに、ずちなし。さらにえ隠し申すまじ。さなむとや聞かせ奉るべき。いかに。仰せにしたがはむ」といひたる、返事は書かで、布(め)を一寸ばかり、紙につつみてやりつ。

 

学びなおしの古典 うつくしきもの枕草子: 学び直しの古典

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