枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

八月ばかりに

 八月の頃、白い単衣の柔らかい着物に良質な袴をはいて、紫苑色ですごく上品なのを羽織ってるんだけど、胸をひどく患ってるものだから、友達の女房たちが次々にやってきてお見舞いをして、外の方にも若々しい貴公子たちがたくさんやって来て「すごくお辛そうですね。いつもこうしてお苦しみになってるんですか?」なんて、何気に言う人もいたりするの。
 でも、想いを寄せてる人が、本当にかわいそうにって思って嘆いてる様子っていうのは、すごく素敵だわ。とてもきれいな長い髪を結んで、吐きそう…って起き上がった様子もかわいい感じね。

 帝も彼女の病気についてお聞きになり、読経する僧の中から声のいい人を選んでお遣わしになったから、几帳を引き寄せて、その向こうに僧侶を座らせたの。でもそれほどでもない狭さの部屋だから、お見舞いの客がたくさん来て、お経を聞いてる姿なんかも隠しようがないから、周囲に目を配りながら読経してるっていうのは、仏罰を受けるんじゃないかしら?って思えるの。


----------訳者の戯言---------

紫苑(しおん)というのは、キク科シオン科の植物です。薄紫色の菊のような花を咲させます。可憐できれいな花です。その花の色、薄い青紫が「紫苑色」ということですね。
もちろん、染色は紫苑の花を使うわけではないようです。紫系の色は前にも書きましたが、高貴さ、気品、優雅さ、なまめかしさetc.憧れの色として、平安時代の王朝貴族たちにとっても特別な色でした。古代から最高の色だったらしいですね。それは紫色が最も手に入りにくい色だったから、という理由もあるようです。と、紫色については「宮にはじめて参りたるころ⑦ ~ひとところだにあるに~」に詳しく書きましたので再読いただければと思います。

「いとほし」というのは、一般には現代語でいう「かわいい」とされている語ですが、元々は「気の毒」「かわいそう」という意味合いがあるです。弱い者、弱ってる者を見て辛い感情とか、困った、という感じです。同情?が愛情に変わる感じでしょうか。

「うつくし」っていうのはもっと、可憐な様子を表します。庇護したい感じもあるようですね。ただ、人以外、つまりモノとかにも使います。
「らうたし」は、さらにもっと守りたい意識が強い感じで、原則、人に対して使われるようです。幼児とかでしょうか。ただ、「らうたげ」は、虫や花に使われてるのを見たことがあります。

胸を患って苦しんでる一人の女房。いろいろな人がお見舞いに来ますが、社交辞令的に、たいへんですね、かわいそうに、ずっとですか…的なこと言う人たちもいるんですね。ただ、本気で惚れてる彼氏は違いますよ、と。真剣にいたわってる、その雰囲気はわかるんですかね、清少納言でも。

病気を聞きつけた帝は、いい声で読経するお坊さんを遣わせてくれます。病気退散の読経をしろと。科学的根拠はないんですけどね。ですから、いっぱい見舞客がいて、少々よそ見とかしても、どっちでもいいですよ、と私は思います。それで治りはしませんからね。仏様もそれで治るとはお考えではないと思いますよ。むしろ、目的は心の平穏です。
狭い部屋に見舞客多いのは不可抗力で、気が散るのも仕方ないですしね。それほど仏罰もないんじゃないでしょうか。

というわけで、なんか、病気関連の段が続いてますね。
大丈夫ですか、清少納言。と思い、次の段をちらっと見たら、病気ネタではありませんでした。病気の段?はこの3つ連続でとりあえず完了ということでしょうか。


【原文】

 八月ばかりに、白き単衣なよらかなるに、袴よきほどにて、紫苑の衣のいとあてやかなるを引きかけて、胸をいみじう病めば、友達の女房など、数々(かずかず)来つつとぶらひ、外(と)のかたにも若やかなる君達あまた来て、「いといとほしきわざかな。例もかうや悩み給ふ」など、ことなしびにいふもあり。

 心かけたる人はまことにいとほしと思ひ嘆きたるこそをかしけれ。いとうるはしう長き髪を引き結ひて、ものつくとて起きあがりたるけしきもらうたげなり。

 上にもきこしめして、御読経の僧の声よきたまはせたれば、几帳引きよせてすゑたり。ほどもなきせばさなれば、とぶらひ人あまた来て、経聞きなどするも隠れなきに、目をくばりて読みゐたるこそ、罪や得(う)らむとおぼゆれ。

 

枕草子 ストーリーで楽しむ日本の古典

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