枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

宮にはじめて参りたるころ⑦ ~ひとところだにあるに~

 大納言殿お一人でもこんななのに、また先払いをさせて、同じ直衣の人が参上なさって。この人はもう少し華やかな感じで、猿楽言(さるがうごと)なんかをおっしゃるの、女房たちは笑って、おもしろがってね。「私も、誰それが、こんなことをね」なんて殿上人のウワサ話なんかを申し上げられてるのを、やはり、変化の者、天上界の人なんかが地上に降りて来たのかな、って思ったんだけど、お仕えするのに慣れて、日にちが過ぎたら、そんなに大したことでもなかったのよね。こうやって見てる女房たちだって、みんな家から宮中に出仕しはじめた頃はそんな風に思ったんだろうかな?とか、わかっていくうちに、自然と私も慣れていったみたいなのね。


----------訳者の戯言---------

前駆(さき/ぜんぐ)というのは、③でも出てきましたが、先払い、先追いなどのことだそうです。貴人が道を通ったりする時に担当スタッフが声を上げて、道を空けるために人払いをしたそうで、そのことをこう言ったそうですね。

「同じ直衣の人」とあります。大納言・伊周は紫色でしたね。
古代より紫は最高の色だったらしいです。というのは、紫色が最も手に入りにくい色だったからなんだそうですね。
ま今で言うなら、ダイヤモンドであったり、プラチナであったり、エルメスバーキンだったり、といったところでしょう。服だったら、プレタではなく、ハイブランドオートクチュールです。

染色としての紫は、紫草(ムラサキ)の根によって染められましたが、大変な日にちや手間がかかったらしいです。
ちなみにムラサキは夏に白い花を咲かせます。花の色は紫色ではないんですね。
少し前、「野は」という段で、当時都の北部に紫野という野があり、希少な紫草が生えていたらしいと書きました。調べたところ、紫草(ムラサキ)は今、絶滅危惧種に指定されているそうです。江戸時代まではこれを使った染色もあったため、細々と栽培されていたらしいですが、合成染料の登場によって激減したらしいですね。仕方のないことでしょうか。

ともかく、紫というのは、高貴さ、気品、優雅さ、なまめかしさetc.憧れの色として平安時代の王朝貴族たちにとっては特別な色だったということです。で、それを大納言は着て来たんですが、もう一人の人もおんなじ服でしたと。
「かぶってるかぶってる!」とは思わなかったんですかね。私はイヤですけどね、人とおんなじ色とか被ったら。

猿楽言(さるがうごと)。冗談を言うことを、当時はこう言いました。前も書きましたが、伊周と定子の父、関白・藤原道隆がよく言ってましたね(『淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど⑥ ~あなたにも御膳まゐる~』等)。どうせしょうもないオヤジギャグみたいなもんでしょうけど、関白ですから、笑わなしゃーないですしね。本人、ウケたと思って、また性懲りもなく言いますから、悪循環になるケースです。上司のおじさんと同じパターンですよ。

ということで、どうも「同じ直衣の人」を=関白(藤原道隆)と解釈する訳者もいるようです。私はそうは思いませんが、もしかするとそうなのかもしれません。たしかにそれぐらいのチャラさを持ったキャラではあったようには思いますが。笑いのセンスは、寒過ぎますからね、道隆。ま、真実は清少納言のみぞ知るです。

変化(へんげ)の者というのは、神仏などが、仮に人の姿となって現れることを言います。化身とか。変化(へんげ)というと、どちらかというと物の怪、妖(あやかし)を思い浮かべますし、そういう意味で言うこともあるようですが、当時はどっちかというと、神仏の化身の意味ほうがポピュラーだったようです。

天人(てんにん/あまびと)、つまり天上界の人です。道徳的に前世によい生活をおくった者とされるらしい。さて私は天上に行けるのか? 微妙~。

というわけで、もう一人、なんか高貴な感じの人が来ました。紫色の直衣。しかも、派手めで、冗談とか言う男。伊周さまよりさらにチャラい系です。それを清少納言はまるで、殿上の人か神仏の化身かと見惚れます。なんという誤解。

それ見たことか、しばらくして宮仕えに慣れてくると、「そんな大したことでもなかったわー」って。
いよいよこの段も次回⑧で終わります。さて、どんなオチがあるのでしょうか


【原文】

 ひとところだにあるに、また前駆うち追はせて、同じ直衣の人参り給ひて、これは今少しはなやぎ、猿楽(さるがう)言などし給ふを、笑ひ興じ、「我も、なにがしが、とあること」など、殿上人のうへなど申し給ふを聞くは、なほ変化の者、天人などの下り来たるにやとおぼえしを、候ひ慣れ、日ごろ過ぐれば、いとさしもあらぬわざにこそはありけれ。かく見る人々も、みな家の内裏出でそめけむほどは、さこそはおぼえけめなど、観じもてゆくに、おのづから面慣れぬべし。

 

検:宮に初めて参りたるころ

 

枕草子 (岩波文庫)

枕草子 (岩波文庫)

  • 作者:清少納言
  • 発売日: 1962/10/16
  • メディア: 文庫