枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

宮にはじめて参りたるころ④ ~大納言殿の参り給へるなりけり~

 (関白殿ではなく)大納言(藤原伊周)殿が参上なさったの。直衣、指貫の紫の色が、雪に映えてすごく素敵なのよ。柱のたもとにお座りになって、大納言殿、「昨日今日と物忌みだったんですが、雪がひどく降りましたから、気になりましてね」と申し上げなさったの。「『道もない』って思ってましたのに…どうして??」ってお答えになるのよ。するとお笑いになって、「『ステキだわ』とでもご覧いただけるかな?って」なんておっしゃるご様子なんかも、これ以上にどんなことが勝るかしら? こんな素晴らしいことなんてないでしょ! ドラマで、すらすらっと口から自然に出るままにセリフをしゃべってるのと違わないわ♡♡って思えるのよね♡♡♡

 定子さまは白いお着物を重ね着して、紅の唐綾をその上にお召しになってるの。御髪(みぐし)がかかっていらっしゃるのなんかは、絵に描いたのはこういうの見たことがあるけど、現実には未経験だから、夢みたいな心地がするわ。大納言殿は女房とお話しをなさって、冗談なんかを言われてるの。女房がお答えを全然恥ずかしいとも思わないでお返し申し上げて、また彼があり得ないことなんかをおっしゃるのに、女房が反論とかしてるのを聞くと、見るに堪えないくらいだわってあきれて、なんだかわけもなく、赤面しちゃうわ。果物をお召し上がりになったりして、場を盛り上げて、定子さまにもおすすめになるの。


----------訳者の戯言---------

果たして、姿をあらわしたのは。関白で定子の父である藤原道隆ではなく、その息子で定子から見ると兄、大納言の伊周でした。
原文でも、また訳文をお読みいただいてもおわかりかと思いますが、中宮=皇后は絶対敬語を使う対象ですから、例え兄であっても自分に対しては謙譲語、それを描写する清少納言も謙譲&尊敬語を使い分けているのがわかります。

直衣(なほし/のうし)っていうのは、おなじみですが、当時の男性のカジュアルウェア。トップスのほうです。
指貫(さしぬき)。袴みたいなボトムスですね。ルーズフィットで裾を絞れるようにドローコード付きになっています。

唐綾(からあや)というのは、中国から伝来した綾織物のことを言うそうです。日本でその織り方で日本で織ったものも唐綾と言いました。

「目もあやなり」というのは、一般には「まばゆいほど(に立派)だ」という意味だそうです。と、「見るにたえない」という意味もあります。目もあてられない、というやつですね。ここでは、後者の意味のようですね。

「あさまし」は現代語の「あさましい」の元になる語です。「あきれちゃう、情けなくって、びっくりするわ!」という感じの言葉です。

「あいなし」というのは、がっかりで、引いちゃう、冷めちゃう、つまらないとか不似合いだという意味もありました。ただ、ここで出てきたように、連用形「あいなく」「あいなう」と使うと、「わけもなく」という意味合いの場合が多かったようです。

やって来た藤原伊周大納言。大納言というから、どんなおじさん?と思われるかもしれませんが、伊周は18歳ぐらいで権大納言になって20歳前後で内大臣に昇格していますから、ハッキリ言ってまだまだチャラい二十歳のお兄ちゃんです。ボンボンですし。それが妹のとこに遊びに来たんですね。

伊周と定子の会話の様子、「現実なのにドラマのセリフを言い合ってるみたい~」とでも言いたい感じで書いてます、清少納言。定子さまのルックスに至っては、絵に描いたみたいとか、夢みたいとか。27にもなって本気か??

「御いらへを、いささかはづかしとも思ひたらず聞こえ返し」のところは、「お答えを全然恥ずかしいとも思わないで、お返し申し上げて」と私は訳しましたが、もう少し噛み砕いて言うと、しょうもない冗談を言った(ボケた?)大納言・伊周に女房が「恥ずかし気もなく、ツッコミを入れた」というイメージだと思います。
前、この人の父(関白=藤原道隆)がやたらとジョークを言う段「淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど⑥ ~あなたにも御膳まゐる~」「淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど⑨ ~日の入るほどに~」もありましたが、ちょっと寒いですこの親子。そういう家系なんでしょうか。

というわけで、伊周にツッコんだり、イジったり遠慮のない女房たちに、まだ新入りの清少納言は、びっくりしたり困ったりしている感じですね。

しかし清少納言、この兄妹褒め過ぎ。
⑤に続きます。


【原文】

 大納言殿の参り給へるなりけり。御直衣、指貫の紫の色、雪に映えていみじうをかし。柱もとにゐ給ひて、「昨日、今日物忌みに侍りつれど、雪のいたく降り侍りつれば、おぼつかなさになむ」と申し給ふ。「『道もなし』と思ひつるに、いかで」とぞ御いらへある。うち笑ひ給ひて、「『あはれと』もや御覧ずる[と]とて」などのたまふ御ありさまども、これより何事かはまさらむ。物語にいみじう口にまかせて言ひたるにたがはざめりとおぼゆ。

 宮は、白き御衣どもに、紅の唐綾をぞ上に奉りたる。御髪(みぐし)のかからせ給へるなど、絵にかきたるをこそ、かかることは見しに、うつつにはまだ知らぬを、夢の心地ぞする。女房ともの言ひ、たはぶれ言などし給ふ。御いらへを、いささかはづかしとも思ひたらず聞こえ返し、そら言などのたまふは、あらがひ論じなど聞こゆるは、目もあやに、あさましきまで、あいなう、面(おもて)ぞ赤むや。御菓子(くだもの)参りなど、とりはやして、御前にも参らせ給ふ。

 

検:宮に初めて参りたるころ