枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

宮にはじめて参りたるころ③ ~昼つ方、今日は~

 お昼頃になって、「今日は、やっぱり来て。雪で曇ってるから、ハッキリとは見えないでしょうしね」とかって、何度もお呼び出しになるもんだから、私の局の主(あるじ)も、「見苦しいわよ。どうしてそんなに引き籠ってるの?? どうしようもないくらいすんなりと、定子さまの御前に参上するのを許されてるのは、そんな風に中宮さまがお思いになったのでしょうからね! その思いに逆らうのは憎ったらしいことですよ!」って、やたら急がせて、定子さまの元に伺わせようとするから、私も心ここにあらずになっちゃったけど、でも参上するのはすごくツライの。

 火焼屋(ひたきや)の屋根に雪が降り積もってるのも、珍しくておもしろいわ。定子さまの近くには、いつもの炭櫃に火をたくさん熾(おこ)して、それには敢えて誰も座らないの。上臈女房が身の回りのお世話をするために参上なさったままで、近くにお座りになったわ。沈香木の火桶に梨の絵が描かれてる、それの側に座っていらっしゃるのよね。隣の部屋で、長火鉢に隙間なく座ってる女房たちが唐衣を垂れ下がるみたいに着てたりなんかして、慣れてる感じでリラックスしてるのを見ると、すごくうらやましいわ。お手紙を取り次ぎ、立ったり座ったり、すれ違う様子とかが、遠慮してる風でもなくって、おしゃべりをしたり笑ったりするの。いつの日か、ああやって仲間に入ることができたらなぁ、って思うことさえ気が引けてしまって。奥の方に行って、3、4人集まって、絵とかを見てる人もいるようなのね。

 しばらく経って、先払いの大きな声がするので、「殿(関白=藤原道隆)がお越しになるんだわ」って、みんなが散らかってる物を片づけたりなんかするもんだから、なんとかして部屋に下がろう…って思うんだけど、思いどおりに体を動かせなくって、少しだけ奥の方に引っ込んで。でも見たいのかな? 御几帳の隙間から、チラッと覗き込んだの。


----------訳者の戯言---------

「なほ」という語。よく出てきます。急にちょっと詳しく述べたくなったのですが、「やはり」「やっぱり」という意味で使われることが多いですね。そもそもは「相変わらず」「依然として」という意味。「前とおんなじように」とも同じでしょう。
漢字は「猶」で、これは、「前と同じ状態がそのまま続いている」という意味があります。「ためらう」「ぐずぐずする」という意味もあるそうですが、よくよく意味を考えると元は同じところから来ていることがわかります。

局の主(あるじ)。奇跡的に、まさに、今もその通り同じ意味で通じます。お局さま、部署の主(ぬし)ですね。イメージのままです。大先輩の言うことです。これは逆らえないでしょう。

火焼屋(ひたきや)というのは、宮中で、庭火やかがり火をたいて夜を守る衛士 (えじ) の詰めていた小屋のことだそうです。

上臈(じょうろう)というのは、上臈女房の略で、御匣殿 (みくしげどの) 、尚侍 (ないしのかみ) 、二位、三位の典侍 (すけ) などの上席の女官を指して言いました。

沈(じん)の御火桶。
沈というのは沈香の略だそうです。
ジンチョウゲ科の樹高の高い常緑樹の樹皮が菌に感染したり傷がつくと、それを治すために自らが樹液を出すそうですね。この樹液が固まって樹脂となり、長い時間をかけて胞子やバクテリアによって樹脂の成分が変質して、特有の香りを放つようになるそうです。その固まったのを沈香(じんこう)と言うんですね。沈香という名前は「沈水香木」の略でして、つまり普通の木よりも比重が重いので「水に沈む」ということから、こう呼ぶようになったらしいですね。この沈香というのは、そのままでは香らないらしいです。熱したら芳香がするらしい。
で、この木で作った火桶があったんですね。あったとしたら、こんなの、めちゃくちゃ高級品でしょ。細かくしたのをお香にするような木ですからね、さすが、中宮です。

引き続き、定子さまの元に伺うのをためらっている清少納言。先輩たちがリラックスしている様子がうらやましい、早くあんな風になりたいと。そんな時、中宮定子の父で、関白の藤原道隆が登場? で、その場に緊張感が走ります。興味津々ではあるんですが。
というシーン。この後まだまだ長いです。④に続きます。


【原文】

 昼つ方、「今日は、なほ参れ。雪に曇りてあらはにもあるまじ」など、度々召せば、この局の主(あるじ)も、「見苦し。さのみやは籠りたらむとする。あへなきまで御前許されたるは、さおぼしめすやうこそあらめ。思ふにたがふはにくきものぞ」と、ただ急がしに出だしたつれば、我(あれ)にもあらぬ心地すれど参るぞ、いと苦しき。火焼屋(ひたきや)の上に降り積みたるも、めづらしうをかし。御前近くは、例の炭櫃の火こちたくおこして、それにはわざと人もゐず。上臈御まかなひに候ひ給ひけるままに、近うゐ給へり。沈の御火桶の梨絵したるにおはします。次の間に長炭櫃に隙なくゐたる人々、唐衣こき垂れたるほどなど、馴れやすらかなるを見るも、いとうらやまし。御文取りつぎ、立ち居、行き違ふさまなどの、つつましげならず、物言ひ、ゑ笑ふ。いつの世にか、さやうにまじらひならむと思ふさへぞつつましき。奥寄りて三四人さしつどひて絵など見るもあめり。

 しばしありて、前駆(さき)高う追ふ声すれば、「殿参らせ給ふなり」とて、散りたる物ども取りやりなどするに、いかでおりなむと思へど、さらにえふとも身じろかねば、今少し奥に引き入りて、さすがにゆかしきなめり、御几帳の綻びよりはつかに見入れたり。

 

検:宮に初めて参りたるころ