淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど⑧ ~松君のをかしうもののたまふを~
松君がかわいらしくお話しされるのを、みんな誰もがカワイイ~ってお褒めになるの。「中宮のお子さまってことで、みんなの前に披露しても悪くはないだろうね」なんて関白殿はおっしゃるんだけど、ホント、どうして定子さまに今までお子さまのご誕生がないんだろうって、気になっちゃうのです。
未(ひつじ)の頃(午後2時頃)になって、「筵道をお敷きします」って言って少しの間もなく、帝がお召物の衣ずれの音をさせてお入りになったから、定子さまもこちらにお越しになったのね。そのまま御帳台に二人でお入りになられたから、女房たちもみんな南側に全員、衣ずれの音をさせながら去ってくようなの。廊下には殿上人がすごく大勢いて。関白殿は中宮職の役人をお召しになって、「果物や酒の肴なんかを持ってきて。みんな酔わせてよ」なんておっしゃるのね。まじで殿上人はみんな酔っぱらって、女房たちとおしゃべりする頃には、お互いに心から愉快だなって思ってるようね。
----------訳者の戯言---------
筵道(えんだう/えんどう)というのは貴人が通行する時に、衣服の裾が汚れないように通路に敷いたむしろ、なのだそうですね。
松君カワイ過ぎ、みたいな話から、定子さまにお子さまがいてもいいのになぁ、という話になり。
午後になると、帝が定子さまのところにお渡りになって、二人で御寝所に入られます。
そしてやはり女房たちは気を利かせて、退散するんですね。
この段は、定子の実家(中関白家)の一家集合みたいなことで、枕草子の中でも最も華やかな段の一つとされているらしいですが、高校の授業ではやりづらいでしょうね。少し変えれば「帝の寵愛を一身に受けた中宮定子」という表現になりますが、もう少し生々しい感じがしますね。いえ、いいんですけどね。
で、もう一つみなさん、忘れていませんか。帝と言っても、定子よりも3歳ほど年下だということを。そう、15歳の男子ですからね。18歳くらいの乃木坂のセンター張るようなきれいなお姉さんが自分の嫁なんですから。そりゃ、もう、って感じです。
というわけで、お父さんとしては、娘が帝の寵愛を受けるのは良いことだし、世継ぎを授かればさらに自分ちのメリットも増えますから、結構喜んでいる感じです。酒盛りですからね。
いよいよ次がこの段の最終回。どうなりますか。⑨に続きます。
【原文】
松君のをかしうもののたまふを、たれもたれも、うつくしがり聞こえ給ふ。「宮の御みこたちとて、ひき出でたらむに、わるく侍らじかし」などのたまはするを、げになどかさる御事の今までとぞ心もとなき。
未(ひつぢ)の時ばかりに、「筵道(えんだう)まゐる」と言ふ程もなく、うちそよめき入らせ給へば、宮もこなたに入らせ給ひぬ。やがて御帳に入らせ給ひぬれば、女房もみな南面(おもて)にみなそよめき往ぬめり。廊に殿上人いと多かり。殿の御前に宮司めして「くだもの・さかななど召させよ。人々酔はせ」など仰せらる。まことに皆酔ひて、女房と物言ひ交はすほど、かたみにをかしと思ひたり。
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