枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど⑦ ~しばしありて~

 それからしばらくして、式部の丞の何とかっていう人が、帝からのお使いとして参上したから、御膳宿りの北寄りの部屋に、褥(=敷物)を差し出して座ってもらったんだけど、中宮さまは返事を今日は早くお出しになったのね。で、出してた敷物もまだ片付けてないうちに、今度は東宮のお使いとして周頼の少将が参上したの。お手紙を受け取って、渡殿は細い縁側だから、こっちの縁側に別の敷物を差し出したのね。お手紙はお父様、奥様、定子さまが回し読みなさったの。「ご返事を早くしなさい」ってお父様が言うんだけど、すぐになさらないから、「誰かが見てるから、お書きになれないんだね。そんなじゃないときには、こっちから時間を空けずにお手紙を書かれてたようだけど」なんて申し上げなさったら、淑景舎さまのお顔が少し赤くなって、はにかまれるご様子がすごくステキなの。「ほんとに早く」なんてお母様もおっしゃるから、奥に向いてお書きになってね。お母様が近くにお寄りになって、いっしょにお書きになるから、なおいっそう遠慮がちになってしまってるの。
 定子さまのほうから、萌黄の織物の小袿(こうちき)と袴をお使いのお礼に出して来られたから、三位の中将(藤原隆家)が周頼の少将の肩におかけになったのね。そうしたら、首が苦しい様子で、手に持って立ったの。


----------訳者の戯言---------

「御膳(おもの)やどり」は、漢字では「御膳宿/御物宿」または「御膳宿り/御物宿り」と書くようです。宮中で催される儀式や宴会用の食膳を納めておく場所だそうで、紫宸殿の西廂にあったのだそうです。
しかし、この段の舞台は定子の住まい「登華殿」ですから、「御膳宿り」はないはずです。また、原子が住む「淑景舎(=桐壷)」にも「御膳宿」はありません。登華殿から紫宸殿までは結構距離があって、見える範囲でないのは確かですしね。

というわけで、ここで出てきた「御膳宿り」はいったいどこにあるものなのか? ネットや本で調べてはみたんですが、実はそれが、わからないままで。どなたかおわかりの方がいらっしゃったら、「登華殿」の「御膳宿り」がどういうものなのか、どこにあるのか、教えていただけないでしょうか。たぶん食事の準備をする、または食膳を保管するような部屋ではないかとは思うのですが。

褥(しとね)というのは敷物です。座布団のようなもののようです。一つ前の記事で「円座(わらふだ/わろうだ)」というのが出てきました。円座のほうはもちろん円形で、藁のようなものを編んでますから、どっちかというと夏用のマットみたいな感じかと思います。ただ、この段、冬のできごとですから、あくまでも現代使うなら夏用っぽい感じ、ということですね。褥は布製で四角いです。

周頼(ちかより)の少将というのは、フルネーム・藤原周頼で、当時の右近衛少将です。この段に出てきた兄弟姉妹とは実は異母兄弟にあたります。道隆の子どもの一人ですね。生年が不詳なので何歳くらいかはわかりません。
しかし、正室の子たちと側室の子、えらく扱い違いますね。側室の子はお使い役ですか。右近衛少将というのは四等官の次官(すけ)に相当したそうですから、そこそこのポジションではありますが、なんか、ちょっと複雑な気持ちにはなりますね。

⑧に続きます。


【原文】

 しばしありて、式部の丞(ぞう)なにがし御使に参りたれば、御膳やどりの北に寄りたる間に褥さし出だしてすゑたり、御返し今日は疾く出させ給ひつ。まだ褥も取り入れぬほどに、春宮の御使に周頼(ちかより)の少将参りたり。御文取り入れて、渡殿は細き縁なれば、こなたの縁にこと褥さし出だしたり。御文取り入れて、殿、上、宮など御覧じわたす。「御返しはや」とあれど、とみにも聞こえ給はぬを、「なにがしが見侍れば、書き給はぬなめり。さらぬをりは、これよりぞ間もなく聞こえ給ふなる」など申し給へば、御おもては少し赤みて、うちほほゑみ給へる、いとめでたし。「まことに、とく」など上も聞こえ給へば、奥に向きて書い給ふ。上、近う寄り給ひて、もろともに書かせ奉り給へば、いとどつつましげなり。

 宮の方より萌黄の織物の小袿、袴おし出でたれば、三位の中将かづけ給ふ。頸苦しげに思ひて、持ちて立ちぬ。


検:淑景舎、春宮にまゐりたまふことなど 淑景舎、東宮にまゐりたまふことなど

 

枕草子(上) (講談社文庫)

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