枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

淑景舎、東宮に参り給ふほどのことなど⑥ ~あなたにも御膳まゐる~

 淑景舎さまにもお食事が配膳されました。「うらやましいね、皆さま方には全部出されたようだ。早くお召し上がりになって、爺さん、婆さんにお下がりを下さいよ」なんて、一日中、冗談ばっかりおっしゃってるうちに、大納言殿(藤原伊周)と三位中将(藤原隆家)が伊周の子の松君を連れて参上されたのね。関白殿(道隆)は孫の松君をすぐに抱き寄せて、膝の上に座らせていらっしゃるの、すごくかわいいのよ。狭い縁側に、ところ狭しと衣装の下襲が引き散らされててね。大納言殿(伊周)は堂々としてて美しく、中将殿(隆家)はすごく上品で知性的でスマート、どちらも立派なご様子を拝見すると、お父様の関白殿(道隆)は言うまでもないけど、お母様の北の方(貴子)の前世の因縁もほんとに素晴らしいって言わざるを得ないわね。「円座(わらふだ)を」とかって、お父様はおっしゃるんだけど、「陣の座に参りますから」って言って、大納言殿は急いでお立ちになったの。


----------訳者の戯言---------

ここの両親、お爺さん、お婆さんみたいなこと言ってますが、まだ40代前半と思われます。道隆は43歳で亡くなってますからね。この段はまだギリ生きてた頃の話です。政変とか疫病で亡くなったのではなく、今で言う糖尿病の悪化だったらしいですね。

猿楽言(さるごうごと)というのは、「冗談、ジョーク、おどけた言葉」などの意味があるとされています。まあ、「おもしろトーク」なのでしょう。
けど、道隆、やっぱり大しておもしろいこと言ってないです。寒いオヤジですね。私個人としてはすべってる話です。たぶん娘たちも心の中では(おもしろくねーよ)と思ってるに違いありません。
しかし清少納言自身は、おもしろい体(てい)で書いてます。残念。そこまで気を使わなくてもと思いますが。上流貴族だから仕方ないんでしょうか。

大納言=藤原伊周は、枕草子には時々出てきます。定子の兄ですね。大納言というとおじさんかと思いますが、まだ22歳くらい。父の威光によって昇進していたんです。
三位中将=藤原隆家は定子の弟です。原子(淑景舎の方)の兄。つまり、定子と原子の間に挟まれた男子です。この時17歳?くらいのようですが、すでに三位。こちらもさすが関白の息子、めっちゃ昇進早いです。
松君は藤原伊周の子で、後の藤原道雅という人。このお話の時はまだ4歳とか、それぐらいの年齢だったようですね。

藤原伊周と隆家の兄弟は、例の花山上皇襲撃事件をやらかした二人です。「長徳の変」のきっかけになった事件ですね。もちろん、今回のお話よりは後のことです。清少納言はここでは絶賛していますが、なかなかやんちゃな兄弟です。しかも、けっこう迂闊な子たちかも。全くアンガーマネジメントもできてないですね。
詳しくは、「大進生昌が家に①」の「訳者の戯言」をご覧ください。

原文で、「円座(わらふだ/わろうだ)」という語が出てきます。これは敷物の一種だそうで、藁(わら)、がま、すげ、まこもなどを渦巻き状に平らに編んで作ったもの、とのこと。おそらく今の座布団に近いものだと思います。
道隆が「まあちょっと座りなよ」と言った、ぐらいのニュアンスかと。

原文の「陣」とあるのは「陣の座」のことなのだそうです。「平安時代中頃から,内裏の左右近衛陣にあり、公卿が政務を評議するために着席した場所。本来は近衛の詰所であったが、のちに公卿が会議などを行う場所となった。この会議を陣定 (じんのさだめ)、仗議 (じょうぎ)などと言い、公卿は任官ののち必ず陣座に着くことになっていた」とあります。
大納言・伊周は、「ちょっと今から陣で会議なんで」って、急いで行っちゃった感じですね。

藤原道隆関白一家、集合の日。さて、この先どうなるんでしょうか?
⑦に続きます。


【原文】

 あなた(=淑景舎)にも御膳まゐる。「うらやましう、方々の、みなまゐりぬめり。疾く聞こし召して、翁、嫗に御おろしをだに給へ」など、ただ日一日、ただ猿楽言(さるがうごと)をのみし給ふ程に、大納言殿、三位中将、松君ゐてまゐり給へり。殿いつしかと抱き取り給ひて、膝に据ゑ奉り給へる、いと美し。せばき縁に所せき御装束の下襲引き散らされたり。大納言殿は物々しう清げに、中将殿はいと労々じう、いづれもめでたきを見奉るに、殿をばさるものにて、上の御宿世こそいとめでたけれ。「御円座」など聞こえ給へど、「陣に着き侍るなり」とて、急ぎ立ち給ひぬ。

検:淑景舎、春宮にまゐりたまふことなど 淑景舎、東宮にまゐりたまふことなど

 

現代語訳 枕草子 (岩波現代文庫)

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