枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

宮の五節いださせ給ふに② ~五節の局を~

 「五節の舞姫の控室を、日が暮れないうちから全部取り壊しちゃって中まで見えるようにして、ただ、みっともない恰好を晒しちゃうのって、すごく異常だわ。その夜まではそのまま綺麗な状態にしておきたいものよね」って定子さまがおっしゃったから、それほどあたふたせず、几帳なんかの隙間を結び合わせながら、袖口は外にこぼれ出てるの。

 小兵衛っていう女房が、赤い紐の結び目が解けたから、「これを結び直したいんだけど」って言ったら、(藤原)実方の中将が寄ってきて結んであげたんだけど、普通の様子じゃなくってね。

あしひきの山井の水はこほれるをいかなるひものとくるなるらむ
(山の湧き水だって凍ってしまうほど寒いっていうのに いったいどんな紐が解けるっていうんだろうね)

って彼、歌を詠みかけたのよ。小兵衛はまだ年が若くって、しかも目立ってしまいそうだってことで、言いにくかったのか、返歌もしなかったの。側にいた女房たちもそのままスルーして何にも言わないもんだから、中宮職のスタッフなんかは聞き耳を立てて聞いてたのに、それが長いことそのまんまにされてるのが気になって我慢ならないのか、別の入り口から入ってって、女房の近くに寄ってね、「どうして、こんななんですかね!?」なんて、囁いたりするのよ。私は彼女から4人くらい隔てて座ってたから、うまい具合に思いついても言いにくいのね。ましてや、歌人として有名な実方の中将の歌なんだから、返歌もよっぽどイケてないとどーなのかなぁ?って、遠慮しちゃうのもダメなんだけどね。歌を詠む人たるものそれでいいの? そんな素晴らしい歌じゃなくったって、すっと素早く詠むべきだよね。中宮職の彼らが、イライラして爪はじきをして歩き回るのも気の毒だから、

うはごほりあはにむすべるひもなればかざす日陰にゆるぶばかりを
(水面に張った薄い氷みたいに緩く結んだ紐だから 日の光があたれば《日蔭の蔓を冠にかざした小忌の君たちに会えば》すぐに氷が解けちゃいますわよ)

って、弁のおもとっていう女房に取り次いでもらったら、彼女も消え入るような声で、ちゃんと言えなくって、彼(実方)が「何ですって?何て言ったの?」って耳を傾けて聞くものだから、少しどもって言う彼女が、すごく体裁をつくろって、上手く言おうと思ったせいで、彼はちゃんと聞き取れないままになって。かえって私の上手くもない歌の恥が隠れる気がしてよかったわ。

 舞姫が御殿に上がる時の送りなんかに、気分がよくない、って言って行かない女房だって、定子さまがおっしゃったら、いる人全員が連れ立ってね、これは他の舞姫にはあり得なくって。めちゃくちゃ行き届いてるわ!

 定子さまが担当した舞姫は、相尹(すけまさ)の馬の頭(かみ)の娘で、染殿の式部卿の宮(為平親王)の奥方の(4番目の)妹君のお嬢様、12歳でとっても可愛らしかったのよ。

 最後の夜も、舞姫を背中に負ぶって出る、なんていう騒ぎもなく、そのまま仁寿殿を通って清涼殿の東側の簀子縁から舞姫を先頭に立てて、定子さまの御局に参上したのも素敵だったわ。


----------訳者の戯言---------

藤原実方。一時期、清少納言とつきあってたこともあったんじゃないか、とも言われてるプレイボーイです。詳しくは「小白河といふ所は①」の解説部分にも書いてますのでご参照くださいね。

顕証(けそう)というのは、際立ってること、はっきりしてる、目立ってるという意味のようです。

宮司(みやづかさ)というのは、中宮職(なかのみやのつかさ)のこと。中務省に属し、中宮に関する事務をつかさどった役所とのことです。また、そこに属する役人のことを言う場合もありました。
中宮定子に仕えているわけですから、「中宮職」が頻繁に出てくるのは当然で、これまでにも「大進生昌が家に」の段とか、「職の御曹司の西面の立蔀のもとにて」の段にも出てきました。「職の御曹司/職御曹司」というのは中宮職の庁舎でしたね。「かへる年の二月廿余日」「職の御曹司におはします頃、西の廂にて」でもでも出てきました。

「爪はじき」というのは、親指の腹に人さし指の爪を掛けて強くはじくこと。不満な気持ちを発散させる動作だったそうですね。そうですか。昔はそうだったんですか。

清少納言の詠んだ返歌「うはごほりあはにむすべるひもなればかざす日陰にゆるぶばかりを」を、私は「水面に張った薄い氷みたいに緩く結んだ紐だから 日の光があたればすぐに氷が解けちゃいますわよ」と訳したんですが、ここで出てきた「かざす日陰」というのは、五節で冠につける日蔭葛/日陰蔓(ひかげのかずら)を掛詞にしているようですね。こういう仕掛けをしてくるところが清少納言らしいというか、しかもそれをまたここでアピールしてきます。

「馬の頭」というのは、朝廷保有の馬の飼育・調教にあたった馬寮(めりょう)という部署の長官です。

「染殿の式部卿の宮の上の御おとうとの四の君の御腹」って(笑)。「の」が7コも出てくるんですから、一体何のことかわかりません。みなさんわかるんでしょうか。おわかりですね、すみません、私ぐらいですか。

いろいろ調べてみると、まず「染殿の式部卿の宮」が1セットらしい。本名・為平親王(ためひらしんのう)のことで、村上天皇の第四皇子です。この人は、政争に巻き込まれて波乱の人生だったようですが、詳しくはここでは省きます。すみません。興味のある方はお調べください。で、「式部卿」というのは、式部省の長官のことだそうですが、だいたいは親王(皇子)が任ぜられたらしいんですね。「の宮」と付くのは親王だからでしょう。「染殿」というのはお屋敷の名前、つまり住んでいたところなのでしょうが、ここは不詳です。よくわかりませんでした。これが「染殿の大臣(おとど)」と言うと、太政大臣をやった藤原良房のことだそうですね。

そして、その為平親王の「上」つまり奥方の「御おとうと」、これは妹君のことだそうです。昔は男も女も「おとうと」と言ってたんですねー。で、この妹君は4番目の子だったと。「上の御おとうとの四の君」が表している女性、要するに為平親王の奥方の兄弟姉妹の4番目の姫君。で、この人の「御腹」つまり「お嬢ちゃん」が、ここで出てきた12歳の舞姫っていうことですね。

舞姫を背負って出る、というのはどういうことかというと、この年齢での大役ですから、数日間の緊張や疲労で気を失っちゃったり、ぐったりすることもあったのではないかと想像しました。合ってますよね?

簀子(すのこ)というのは、簀子を並べて造った建物の外側の濡縁=簀子縁のことです。

新嘗祭に際して)中宮定子が選んで出した12歳の舞姫、お世話係もしっかり揃え、スタッフの衣装もめちゃくちゃおしゃれなのを用意したのはさすが定子さま、控室も最後までちゃんとしててね、と。そんな話の合間に藤原実方が出てきます。で、その実方との和歌のやりとりがありーのしながら、ま、粛々と終えることもできたというお話でした。

まいて、臨時の祭の調楽などは」と同様に、学園祭の時のワクワク感、その合間のいろいろなエピソードetc.という感じの段でした。ほほえましいですね。


【原文】

 「五節の局を、日も暮れぬほどに、みなこぼちすかして、ただあやしうてあらする、いとことやうなることなり。その夜までは、なほうるはしながらこそあらめ」とのたまはせて、さもまどはさず、几帳どものほころび結ひつつ、こぼれ<出>でたり。

 小兵衛といふが、赤紐のとけたるを、「これ結ばばや」といへば、実方の中将寄りてつくろふに、ただならず。

  あしひきの山井の水はこほれるをいかなるひものとくるなるらむ

と言ひかく。年若き人の、さる顕証(けそう)のほどなれば、言ひにくきにや、返しもせず。そのかたはらなる人どもも、ただうち過ぐしつつ、ともかくも言はぬを、宮司(みやづかさ)などは耳とどめて聞きけるに、久しうなりげなるかたはらいたさに、こと方より入りて、女房のもとによりて、「などかうはおはするぞ」などぞささめくなる。四人ばかりをへだててゐたれば、よう思ひ得たらむにても言ひにくし。まいて、歌よむと知りたる人のは、おぼろげならざらむは、いかでかと、つつましきこそはわろけれ。よむ人はさやはある。いとめでたからねど、ふとこそうちいへ。爪はじきをしありくが、いとほしければ、

うはごほりあはにむすべるひもなればかざす日陰にゆるぶばかりを
(うは氷あはに結べる紐なればかざす日かげにゆるぶばかりを)
(うはごほりあはに結べる紐なればかざす日影にゆるぶばかりぞ)

と、弁のおもとといふに伝へさすれば、消え入りつつ、えも言ひやらねば、「何とか、何とか」と耳をかたぶけて問ふに、少し言(こと)どもりする人の、いみじうつくろひ、めでたしと聞かせむと思ひければ、え聞きつけずなりぬるこそ、なかなか恥かくる<る>心地してよかりしか。のぼる送りなどに、なやましと言ひて行かぬ人をも、のたまはせしかば、ある限りつれだちて、ことにも似ず、あまりこそうるさげな<め>れ。

 舞姫は、相尹(すけまさ)の馬の頭(かみ)の女(むすめ)、染殿の式部卿の宮の上の御おとうとの四の君の御腹、十二にて、いとをかしげなりき。

 はての夜も、おひかづき出でもさわがず。やがて仁寿殿(じじゆうでん)より通りて、清涼殿の御前の東の簀子より舞姫をさきにて、上の御局に参りしほども、をかしかりき。

 

こころきらきら枕草子 ~笑って恋して清少納言

こころきらきら枕草子 ~笑って恋して清少納言