枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

成信の中将は② ~一条の院に作らせ給ひたる~

 一条の院にお造りになった一間所には、嫌な人はまったく寄せ付けないの。東の御門に向かい合っててすごくいい感じの小廂に、式部のおもとと一緒になって夜も昼もいるもんだから、帝もいつもご見物に入って来られるのよ。「今夜は中で寝ましょうかね」って言って、南の廂の間に二人で寝た後で、しきりに呼ぶ人がいるのを、うるさいわね~なんて申し合わせて寝たふりをしてたら、やっぱりさらにうるさい声で呼んでくるの、「それ、起こしなさい、寝たふりしてるんでしょ?」って定子さまもおっしゃったもんだから、あの兵部(平の姓になった人)が来て起こすんだけど、ぐっすり眠りに入ってるっぽい感じだから、「やっぱりお起きにならないみたいですね」ってうるさい人のところに言いに行って。そのままそこに座りこんでお話をしてるのね。少しの間かと思ってたら、夜がすごく更けて。「権中将(成信)でしょ? これはいったい何をそんなに座り込んで話してるのかしら?」って言って、こっそりと、でもめちゃくちゃ笑ってるんだけど、彼らも何でなのかはわかってないのね。権中将は夜明け前まで話し続けて帰ったの。「中将の君(成信)ってすごく変な人だったのね!? もう絶対近くにいらっしゃっても話さないわ! いったい何をあんな夜通し話すのかしら??」なんて言って笑ってたら、引き戸を開けて例の女子が入って来たのよ。


----------訳者の戯言---------

一条院というのは、大宮院とも言われていたらしいですね。当時の皇居スペース=大内裏の北端は一条通(一条大路)で、東の端は大宮通(大宮大路)です。その二つの道路の交わるあたり、大内裏の外側北東部にあった邸宅ですね。だから一条院とか大宮院と言われたのでしょう。一条天皇の邸宅だから一条院というわけではありません。地名です。で、この一条院という邸宅を今内裏(いまだいり)として使いました。
今内裏というのは里内裏と言ったりもしたもので、平安宮の大内裏の外の街に設けられた皇居という意味です。

一間の所=一間所(ひとまどころ)とは、柱と柱との間が一つの部屋のことを言います。お屋敷の中に小さな部屋をつくっていたのでしょう。

「式部のおもと」いうのは清少納言の同僚女房です。「職の御曹司の西面の立蔀のもとにて②」でも清少納言と一緒に寝ていました。仲が良かったのでしょうか。おもとというのは漢字で「御許」と書き、ご婦人とかお方を指すようですね。「~のおもと」で「~の方、~さま」というニュアンスになります。なので、「式部のおもと」だと、「式部の方」「式部さま」ぐらいの感じでしょうか。式部省の高官、官僚であった家族や親戚がいたからこういう呼び方をしたのかもしれません。

源成信が何やら寝ている清少納言たちを起こそうとしています。眠っている(ふりをしている)二人を起こすのは中宮定子も公認?で、①で出てきた兵部(平の姓になった女房)が来て起こすけれど清少納言は無視。仕方ない、と、兵部はあの源成信のところに行って二人で話し込んでる模様です。え??あれだけ兵部を差別してたのに!!!と笑う清少納言たち。そのまま夜明け前まで話し続けて帰った成信クンときたら何やってんでしょ?? 変人? もう口聞かない、一体何を話してたの??とまぁ、清少納言たちがさんざん彼をdisっていると…なんと女性のほう(兵部)が入ってきました!!
どうなる??
③に続きます。


【原文】

 一条の院に作らせ給ひたる一間の所には、にくき人はさらに寄せず。東の御門につと向かひて、いとをかしき小廂に、式部のおもとと諸共に、夜も昼もあれば、上も常にもの御覧じに入らせ給ふ。「今宵は内に寝なむ」とて、南の廂に二人臥しぬるのちに、いみじう呼ぶ人のあるを、うるさしなど言ひ合はせて、寝たるやうにてあれば、なほいみじうかしがましう呼ぶを、「それ起こせ。空寝ならむ」と仰せられければ、この兵部来て起こせど、いみじう寝入りたるさまなれば、「さらに起き給はざめり」と言ひに行きたるに、やがてゐつきて、物言ふなり。しばしかと思ふに、夜いたうふけぬ。「権中将にこそあなれ。こは何事を、かくゐては言ふぞ」とて、みそかに、ただいみじう笑ふも、いかでかは知らむ。あかつきまで言ひ明かして帰る。また、「この君、いとゆゆしかりけり。さらに、寄りおはせむに、物言はじ。何事をさは言ひ明かすぞ」など言ひ笑ふに、遣戸あけて、女は入り来ぬ。