枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

上達部は

 上達部というと、左大将。右大将。春宮の大夫。権大納言。権中納言。宰相の中将。三位の中将。


----------訳者の戯言---------

上達部(かんだちめ)。三位以上の上級貴族。参議の場合は四位でもこの中に入ります。
朝廷の幹部貴族ですね。数えてみると、おおよそ、清少納言の頃は20何人かぐらいいました。

そもそも、律令制度では「位階」という身分制度で階級分けがされていました。
正一位従一位からはじまって~従八位の上と下、そして最下位の少初位の下まで、30コの位階があったそうです。
一応、五位以上が「貴族」なんだそうですね、厳密に言うと。なので、清少納言とかは、その考え方からいうと貴族ではありません。「貴族たち一派」でしかないんですね。
で、その下にこの位階も何にもない、私のような一般庶民がいました。

その位階に対応して仕事「官職」があり、例えば正一位従一位では太政大臣、正二位や従二位で左大臣や右大臣、正三位で大納言、従三位中納言、みたいな感じで対応していたみたいです。

例えが適当でないかもしれませんが、会社で言えば、代表取締役、取締役、執行役員、一般社員などの「階級(クラス)」があるとします。一方で、この「クラス」に対応する仕事、つまり社長とか、会長とか、専務とか、常務とか、さらにこれらと兼任して、コンプライアンス担当とか、財務担当とか、事業本部長、経営企画室室長、人事部長、営業本部長、広報担当、社長室付等々、いろいろな「職」つまり「お仕事」の役割分担あるという感じに似ていると思います。

左大将、右大将は、左右の近衛府の長官です。宮中の警固などを司るのが近衛府という役所ですが、左右2つあったんですね。それぞれの大将(長官)を左大将、右大将と言いました。官位相当は従三位です。日本では左のほうが上位とされています。

そういうわけで、雛人形にある左大臣と右大臣は、向かって右側が左大臣(老人のほうの人形)を置くのが正解。左に若い方の人形を置きます。
しかし。余談ですが、実はおひな様の左大臣、右大臣は実は「随身」、つまりSP的なスタッフとされています。本当は大臣さんたちの人形ではないんですね。間違って言っているんですよ、あれ。「おひなさま」の歌も悪いですね。あれは昔の有名な作詞家が書いたんですが、童話とは言えちょっとどうかと思います。私たち一般市民が間違っても、それほど問題は無いんですが、高名な人がやらかすと取り返しのつかないことになりますね。

話を戻します。
左大将、右大将については、従三位相当ですが、官職的には平安中期以降は大納言よりも上位とされるようになったそうです。もちろん、大臣や大納言、中納言と兼務する人も多くいたようですけれど。
左大将、右大将になる人というのは、摂関家、つまり大納言、右大臣、左大臣を経て摂政関白、太政大臣に昇任できる家格の家の子息なのだそうです。

春宮というのは、皇太子と皇太子妃、またその未婚の子女(親王/内親王)の家政機関です。
東宮(とうぐう)=春宮(しゅんぐう)です。同じものです。今はもっぱら東宮と言いますが。そこのトップは大夫(だいぶ)と言います。位階は従四位下相当だそうです。これも摂関家の子弟がなることが多かったようですね。

権大納言と権中納言。ただの大納言、中納言ではなく、あえて権大納言、権中納言と書いてます。こういうふうに「権」が付く官職のことを権官と言いますが、そもそも権官というのは、定められた定員以外に置かれた官のことを言いました。何もつかない正の大納言も中納言も、権大納言、権中納言もシゴト自体は変わりはないはずなんですがね。なぜ権が付いてる方がいいのでしょうか。

ま、ざっくり書くと、大臣経験者の子どもや孫は、それだけでいい位階を与えられたんですね。昔は側室とかもいっぱいいましたし、子どもとか孫も多かったですから。すると、そのハイクラスの人たちが馬鹿みたいに増えていきます。そうすると、先にも書いたとおり、それに対応する官職が足りなくなってきます。で、それなりのいいポストを増やさざるを得なくなると。で、増やしちゃったのが「権官」でした。なので、権大納言や権中納言には、ええとこの出の、若い貴族がなることが多くなったんですね。

宰相の中将。これはつい最近の段にも出てきました。枕草子ではおなじみの貴公子、藤原斉信がこの職ありましたね。宰相=参議にして近衛府の中将というエリートです。「宰相」というと現代では、内閣総理大臣(首相)の通称として使われる言葉です。が、元々は国政を補佐する官職「参議」のことでした。大臣、大納言、中納言の下あたりのポジションです。これも家格のいい若手がなることが多かったようですね。藤原斉信も父は藤原為光という太政大臣をやった人。自身も最終的には大納言になりました。ただし、この人は権大納言ではなく正の大納言だったそうです。家格だけでなく実力もあったのでしょうか。

三位の中将。近衛府の中将というのは、普通は四位が相当とされています。が、特別に三位を授けられた人がいて、それを三位の中将と言いました。これも大臣の子や孫に限られた特別待遇です。定子の父・藤原道隆も三位の中将を経て関白にまで上り詰めましたし、道隆の子で定子の弟の隆家も三位の中将を経て中納言になっています。

というわけで、上達部のなかでも特にいかしてるのは何か?という段です。
気持ち悪いくらいの身分階級意識の強さ。皇族を除けば、揺るぎようのないヒエラルキーの頂点にある者を露骨に礼賛する清少納言です。無自覚ですね。本当に誰か注意してやれよと思うくらいヒドイです。


【原文】

 上達部は 左大将。右大将。春宮の大夫。権大納言。権中納言。宰相の中将。三位の中将。

 

まんがで読む 枕草子 (学研まんが日本の古典)

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