枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

十八九ばかりの人の

 18、9歳ぐらいの人で、髪がすごくキレイで背丈くらいあって、裾はすごくふさふさしてて、とてもよく太ってて、めっちゃ色白で、顔がかわいくて、素敵って見える女子が、歯をひどく患って、額の髪も涙でびっしょり泣き濡らし、髪が乱れて顔にかかってるのも気づかずに、顔もすごく赤くして押さえて座ってるのが、とてもチャーミングなの。


----------訳者の戯言---------

髪が背丈ほど、って書かれてます、今回の美女。で、ネットで調べていたら、世界一長い髪の10代女性が日本にいたそうで。ギネスですけど、去年ぐらいまで。というのも、その人は去年髪を切って、医療用かつらをつくるために、と、寄付したらしいですね。これ、「ヘアドネーション」っていうそうです。
というのは余談なんですが、その人の髪の長さが155cmだったと。これで世界一ですからね。この段では、身の丈ぐらいと書いてますから、世界最長レベルです。当時の成人女性の平均身長は140cmぐらいですから、もう少し短いとしても、相当長いですよね。

髪の毛の長さについての科学的根拠については、「昔おぼえて不用なるもの」に詳しく書きました。ご参照ください。

髪が長くて綺麗、というのは「うらやましげなるもの③ ~女児も、男児も~」にありました。
黒髪が長くて、さらさらで、つやつやしているのがいい、ここにも書かれているとおり、毛量が多くボリューミーなことも賞賛の対象になっていますから、美人の条件であったというのは、これまで枕草子を読んだ中でもわかります。

とてもよく太ってる、と書いてます。原文では「いとよう肥えて」ですから、ぽっちゃり、どころではない感じもします。ぽっちゃりな中でも、さらに結構太ってるイメージでしょうか。ま、当時は全般的に栄養状態がよくなかったですから、貴族の子女ぐらいでないと、ぽちゃぽちゃに太れなかったんでしょう。子どもを産むことも大切なことでしたから、そういう意味でも太っていることは魅力だった、ということかもしれません。ただ、背は低い、小柄なほうがよかったみたいです。

色が白いというのもポイントが高いようですね。これは今もかもしれませんが、肌のキメが細かくて色白っていうのが美人の条件だったというのは、わかるような気がします。これも、野外で仕事なんかしないいいお家の子女だからと、当時の階層意識の高さなんかも関係しているかもしれません。
まとめると、色白の低身長のぽっちゃり体型がベスト、という感じかと思います。

しかし、平安時代の美人女性というのは、どんな感じだったのか? これ、難しいんですね。
ここでも「顔愛敬づき」とありまして、しかし「愛嬌づいた顔」がどんな顔なのか、さっぱりわかりませんからね。今だったら、石原さとみ佐々木希の顔とか、ガッキーがいい、北川景子!とか、テレビやネットありますから、わかりますけど。絵ですからね。客観データ皆無ですから、当時と共有できないんですよ。

が、調べてみたところ、おおむね、平安時代には目は切れ長で一重がよかったらしいです、二重でパッチリよりも。鼻とか口は小さめ。鼻筋は通ってるほうがよかったみたいですね。顔は頬っぺたがふっくらとしてて、しもぶくれ、所謂おたふく顔がよかったらしいです。
とはいえ、当時の高貴な女性はおしろいをめちゃくちゃ塗ってましたから、顔の細かなつくりがそれほど重要だったのか?という疑問もありますよね。

男性から恋愛対象として見る場合も、御簾越しに垣間見る程度、夜は今のように電灯が煌煌と灯っているわけではないし、まったく顔を見ないまま結ばれることもあったらしい、ということで、それほど顔がいいということが重要なことだったのか?とさえ思います。

で、思い出されるのは「源氏物語」で出てくる不美人の代表例、末摘花という女性です。座高が高くて、やせ細ってて顔は青白く、そして鼻が大きい、という感じで描かれていますが、たしかに私が上に書いた、美人の条件、「色白の低身長のぽっちゃり体型、顔もふっくら大きく、でも造作は小さめ」とは対極にあると言っていいでしょう。

で、額に髪がかかってて、泣き濡れて、元は色白だったんでしょうけど、赤く上気した顔でいるというのが、良い感じに見えた、チャーミングでしたと。
ぽっちゃり美女が痛みを耐えている姿。心動かされるといえば、そうかもしれませんが、清少納言も女子ながら、なかなかマニアックというか、シュールというか、もしくはサディスティックというか、そういう段でした。


【原文】

 十八九ばかりの人の、髪いとうるはしくて丈ばかりに、裾いとふさやかなる、いとよう肥えて、いみじう色白う、顔愛敬づき、よしと見ゆるが、歯をいみじう病みて、額髪もしとどに泣きぬらし、乱れかかるも知らず、面(おもて)もいと赤くて、おさへてゐたるこそをかしけれ。

 

枕草子 いとめでたし!

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