枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

弾くものは

 弾くものって言ったら、琵琶よね。その調弦は風香調(ふこうじょう)がいいわ。黄鐘調(おうしきじょう)。蘇合(そごう)の急。鶯(うぐいす)の囀(さえず)りっていう曲。
 
 筝(そう)の琴は、すごく素晴らしいわ。筝曲は、想夫恋(そうふれん)がいいわね。


----------訳者の戯言---------

琵琶というと、琵琶法師の琵琶ですね。古いもので、その原型となった楽器はササン朝ペルシアの頃にはあったとか。西洋ではリュートとかになったようですね。で、琵琶は日本でも奈良時代には伝わってたらしいです。
楽器分類学上は「リュート属」に属しているもの。撥弦楽器、つまり弾(はじ)いて音を出す弦楽器で、普通はバチで弾きます。日本では三味線などよりもかなりかなり古い歴史があります。実は三味線は15世紀とか16世紀とかに沖縄(琉球)から伝わったもので、かなり新しいのです。
ちなみにバイオリンは擦弦楽器で、ラバーブという楽器が起源だそうですね。少し系統が違います。

清涼殿の丑寅の隅の③」という段に、琴(こと)、つまり当時の弦楽器のことを書いています。もし興味がおありでしたら、ご覧くださいね。琵琶も「琵琶の琴」と言われることがありました。


風香調(ふこうちょう)というのは、楽琵琶(雅楽で使われる琵琶)の調子の一つ。実際には黄鐘(おうしき)調の笛に合わせるものと盤渉調の笛に合わせるものと二通りの調弦(チューニング)があったらしいです。華やかなものとして、平安時代に愛好されたとか。

黄鐘(おうしき)調というのは、雅楽六調子の一つ。黄鐘の音(イ音)を主音とする旋法だそうです。ということですから、わかりやすく言うと、ドレミファ~のラ(A)を主音とするキーですね。

盤渉調というのも、六調子の一つ。盤渉(洋楽のロにあたる)の音を主音にした調べと書かれています。ロ音ですから、シ、B。Bのスケールでしょうか? 冬の調子と言われるそうです。

ですが、「調子」とか「旋法」とか、前段の「舞は」でも書いたとおり、洋楽とは違うようで、正直よくはわかりません。やっぱり聴き込まないとわからない。というか、慣れでしょうか。

かく言う私も、パンクロックがオルタナティブロックであるかと言われれば「??」ですし、ハードロックとヘビメタの境界線も曖昧、R&Bとソウル、ゴスペルの違いとかもモノによってはよくわからないですしね。正直J-POPとシティポップと歌謡曲の違いもわからないというかー、ですから。

ま、琵琶のチューニングって話ですから、ロックギターで言うオープンGとかオープンDとか、そういうものなのでしょう。オープンGというとキース・リチャーズですね。「ブラウンシュガー」とか、もちろん普通のチューニングでも弾けるけど、やっぱ響きはオープンチューニングのほうがかっこいい。そういう感じってことかな。
つまり。「弾くものはギター、チューニングはオープンGよね」ぐらいの感じかもしれません。ほんまか?


で、黄鐘調は先ほどすでに出てきましたが、雅楽六調子の一つです。繰り返しになりますが、黄鐘の音(イ音)を主音とする旋法。でも何回書いてもわかりません。実際にじっくり聴いたこともないですから、わかるわけないですね。清少納言的には好きみたいです。


蘇合(そごう)の急というのは何か?という疑問。たしかに「蘇合香(そこう/そごうこう)」という曲が雅楽にあるようです。「教訓抄」という書物によると、中国から伝わった曲らしいですが、インドのアショカ王が病気になった時、蘇合香という草を薬にしなければ亡くなってしまう、なんてことを言われ、こりゃ国の一大事!!ってことで、これを探し回ったらしいんですね。しかし、すぐに手に入れることができなかった。7日後にこの草をようやくGETでき、病気も回復したと。これを喜んで作ったそうです。舞のほうは王の弟の作と言われてます。良くできた話だ。この草を甲(かぶと)に仕立てて、舞ったところ、御殿の中が香りでいっぱいになったとか。で、この草の名「蘇合香」を曲の名としたんだと。出来過ぎですよね。

で、この「蘇合香」という曲、めちゃくちゃ大曲です。全部演じると数時間かかるらしい。なんと、盤渉調調子、道行、序、三帖 (さんのじょう) 、四帖、五帖、破、急、重吹から成る大規模な曲なんですね。交響楽で言うと組曲みたいなものでしょうか。で、清少納言はこのうちの「急」が良いということなのでしょう。
例えて言うと、「『アルルの女』の『メヌエット』がステキ!」とか「『惑星』の『ジュピター』がいいわね」とかのイメージです。


「鶯の囀り」というのは「春鶯囀(しゅんおうでん/しゅんのうでん)」のことのようで、これも大曲だそうです。唐楽の4個の大曲のうちの一つらしいですね。4つの大曲というのは、「皇麞(おうじょう)」「春鶯囀」「蘇合香」「万秋楽(まんじゅうらく)」です。先に出てきた「蘇合香」も含まれてます。この「春鶯囀」という曲は唐の高宗がウグイスの声を模して作らせたと言われているそうです。なんだかんだ、逸話がありますね。髭男がコンフィデンスマンJPロマンス編の時に作った、とか、米津玄師が初音ミクで作った、とか、佐村河内さんが新垣さんに作ってもらったとか。まぁそういう感じでしょうか。なわけねー。

でも大曲というから、長いんでしょうね。クラシック音楽もそうですけど、そこそこ長いです。「春鶯囀」も1時間超らしいですよ。
余談ですが、有名な話なのが、音楽CDのデータ容量です。12cmCD=74分と決められたのは、ベートーベンの第九が収まる時間、としたのは本当のようで、よくクイズ番組で出ますよね。実際にクラシックの95%は75分で収まるんだそうです。つまり逆に言うと、クラシックって結構長いんですよ。大概眠くなります、私は。モーツァルト交響曲40番ですぐ寝られますよ。悪口でなく心地よいのです、モーツァルトは。


「筝の琴」は、今、私たちがまさに「筝=こと」と呼んでる楽器です。長くて重たそうで弦がたくさん(13本)張られているあれですね。雅楽ではこれを使ったのでしょう。弦が多いですから、やっぱり音は豊かだと思います。

これに対して「琴(きん)の琴」は小型で、弦は7本。柱(じ)が無く、指で押さえて音程を変え演奏します。筝が柱=ブリッジで音程をつくっているのに対し、演奏にテクニックが要る、つまり難しかったみたいで、平安中期には廃れたようなのですね。フィクションですが、光源氏は名手だったようです。筝よりも琴(きん)のほうが古風だし難しいし、かえって素敵!という感じもあったようですね。

先に紹介した「清涼殿の丑寅の隅の③」でも、村上天皇の女御(宣耀殿の女御)が父の藤原師尹に「琴(きん)の御琴を誰よりも上手に弾けるようにしなさい」と育てられたということが書かれていました。ここからも「琴(きん)」のほうは、上流階級の教養の一つだったことが伺われます。

相府蓮というのは、ググりますと、多肉植物であることがわかります。画像はこんな感じ。蓮の花に似た多肉植物ではありますが、何故この植物に相府蓮という和名が付いたのかはわかりませんでした。
で、この多肉植物とは、名前以外全然関係のないらしいのが、この曲名です。
本来の表記は「相府蓮」なのですが雅楽の曲名としては「想夫恋」として残っています。元々の意味は、「丞相府の蓮」(じょうしょうふのはす/大臣の官邸の蓮)を表すそうです。晋の大臣(丞相)である王倹の官邸の蓮を歌った歌が原曲だったのが、「相府」と「想夫」の音が同じっていうことで、後に、男性を慕う女性の恋情を歌う曲とされたという、なんか誤解が真実になったような…。いいんですけど、アホやなーとちょっと思います。
後世ではありますが、有名なのは「平家物語」の「小督」で、平清盛の怒りを恐れて嵯峨野に隠棲した高倉天皇の寵姫・小督が爪弾いた筝の曲が「想夫恋」であったとのこと。美貌の箏の名手であったと伝えられる人です。


というわけで、今回は、音楽について書いています。たしかに自分的な音楽の趣味を語りたい気分はわからなくもありません。
当時の音楽はまあ、だいたいが雅楽です。ただ、私なんか聴くとどれもおんなじような感じに聴こえますしね、面白くは思えないです。なので、共感からはほど遠いですね。
「調べ」というのもなかなか難解な言葉で、チューニングのこと、キーのこと、それからよくわからない旋法?ですか? 曲自体のことも「調べ」と言うようですしね。

結局、「をかし」とか全然思えません。清少納言を研究してる方、あるいは清少納言に傾倒されている方は、これは当時の音楽に対する清少納言の感想をビビッドに表したもの、とするのでしょうが、私などは「あーねー」って感じですね。はっきり言って、昔の音楽、つまらないです。こんなのに心を動かされたんですかね、昔の人は。


【原文】

 弾くものは 琵琶。調(しら)べは風香調(ふかうでう)。黄鐘調(わうしきでう)。蘇合(そがふ)の急(きふ)。鶯の囀りといふ調べ。

 筝(しやう)の琴、いとめでたし。調べは、相府連(さうふれん)。