枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

関白殿、二月二十一日に⑯ ~まづ、院の御迎へに~

 まず女院のお迎えに関白殿をはじめとして殿上人、地下人なんかもみんな宮中に参上したのね。で、女院がいらっしゃった後に定子さまがいらっしゃるっていうことだから、すごく待ち遠しいなぁって思ってたら、日が高くなってからいらっしゃったのよ。一行のお車は15台で、そのうち4台は尼の車。1番目の女院のお車は唐車なの。それに続いて尼の車(4台)、車の後ろや前から水晶の数珠、薄墨色の裳、袈裟、衣なんかがすごく素晴らしくって、簾は上げないで、下簾も薄紫色の裾が少し濃いのね。次に女房の車10台は桜がさねの唐衣に薄紫色の裳、濃い紅の打衣、香染色や薄紫色の表着(うわぎ)が、すごく優雅だわ。日差しはとてもうららかだけど、空は青く霞みが広がってるところに女房の装束が美しく映えて、立派な織物やいろいろな色の唐衣なんかよりも、優美でおもしろいこと、この上ないの。


----------訳者の戯言---------

女院はもちろん東三条院、つまり関白・道隆の妹であり、円融天皇の后であった皇太后です。出家して女院となりました。一条天皇の母でもあります。なんかおばちゃんのように思えますが、この時まだ32、3歳です。円融天皇が早逝していますしね。まだまだ若いのです。


「殿上人(てんじょうびと)」というのは、清涼殿の殿上間に昇ること(昇殿)を許された人(三位以上は原則全員、四位・五位の一部)の中から公卿を除いた四位以下の者を指します。なお、六位の蔵人も殿上人です。ややっこしいですが。
公卿というのは、太政大臣左大臣、右大臣、大納言、中納言、参議(もしくは参議ではないけれど従三位以上)らの高官(総称して議政官)を指します。
上達部(かんだちめ)というのとごっちゃになりますが、上達部は太政大臣左大臣、右大臣、大納言、中納言、参議、そして三位以上の人。
逆に「地下(じげ)」または「地下人(じげにん)」と呼ばれるのは、清涼殿殿上の間に昇殿する資格を認められていない、つまり「殿上人ではない」官人です。
「殿上人、地下人」のことをやまと言葉で「うえびと、しもびと」と言ったりもするんですね。


唐車というのは、牛車(ぎっしゃ)の一種だそうです。箱(乗り込む部分)を大きく、先日も出てきましたが唐破風造り(からはふづくり)で屋形をつくって唐廂(からびさし)を出したものになってるらしい。屋根を檳榔(びろう)の葉で葺き、廂、腰などにも檳榔の葉を垂らし、簾や下簾も美しく飾ってたらしいです。また、檳榔を染糸に代えることもあったりしたようで、最も華美な様式の車でした。当然の乗る人も、太上天皇、皇后、上皇法皇、皇太后東宮親王または摂関など。
檳榔(びろう)っていうのは、ヤシ科の樹木で、平安時代のには松竹梅よりも神聖視された植物だったそうですよ。
ということなので、唐車は今で言うならロールスロイス・ファントムとかのリムジンみたいなものでしょうかね。
ちなみに今の皇室の御料車トヨタのセンチュリーの特別仕様車らしいですが。

で、ちょっと外れますが、檳榔毛(びろうげ)という車もあります。こちらは檳榔のビラビラで飾った、豪華仕様の大型車です。現代の高級車で言うなら、BMWの7シリーズとかベンツのSクラス、レクサスLS、普通仕様のセンチュリーぐらいでしょうかね。

中小型の普通車に例えられるのは、網代車(あじろぐるま)です。竹または檜の薄板を網代に組んで、屋形を覆ったもので、摂政・関白・大臣・納言・大将などが略式用、遠出用として使い、四・五位、中・少将、侍従などは常用とした車とされています。


「桜がさね(桜襲)」というのは、表地は白で、裏地が二藍(藍+紅、つまり紫系あるいはピンク系の色に染めた生地)の襲ね生地です。

「濃き衣」と出てきます。「濃き」と書かれているものは紫が多いんですが紅の場合もあるんですね。はっきり書けよ!!とは思いますが、「打衣(うちぎぬ)」の場合は普通に紅色または紅の濃色(こきいろ)で、基本的に紅染めの衣なんだそうです。

色の話が続きますが、「香染」は丁子(ちょうじ)で染めたもので、薄い茶色です。カフェラテの色ぐらいの感じでしょうか。当時もそうですが、今は丁子っていうのは主に香辛料として使われますね。英語ではクローブと言いまして、スーパーにも売ってます。肉料理やカレー、そしてチャイの香り付けなどにも使われています。

原文に「空は緑に霞みわたれるほどに」と「緑」という色が出てきますが、この時代の緑は現在の緑色から藍色までを含む広い範囲の色を言ったんですね。だから、緑の空は不自然なものや特殊なものではありません。「青」も白と黒の間の広い範囲の色で、主として青・緑・藍(あい)を指したといいますから、なんかわかったようなわからないようなモヤモヤした感じはありますね。
白馬(あおうま)の節会とかありますしね。しかし、あれは元々本当に青い(黒い)馬だったらしいです。それが途中から白馬とか葦毛(芦毛)の馬になったみたいですね。それで字と読みが微妙にズレてる、そんな感じになったようですね。関係ないですけど、芦毛と言えばオグリキャップですか。芦毛馬って歳を取って老馬になるともっと白くなっていくんですよね。


というわけで、関白殿とか殿上人とか地下とか大勢の人が女院をお迎えに行ったのです。で、出てきた女院一行の行列を二条大路にずらりと並んだ女房たちの牛車がお出迎えし、通り過ぎるのを見ているという状況でしょうか。季節は3月の後半、カラフルな衣を出した牛車が列をなして進む様子です。
古語なのでわかりにくいですが、青空が広がってて春のうららかな日差しの朝、女院の最高級車を筆頭にして、尼さんたちの車からはキラキラの水晶の数珠やライトグレーの衣が出てて、下簾は紫のグラデーション、続いて女房たちの車からはピンク、ライトパープル、カフェオレ色、ディープレッドと、これまたいろんな色使いの衣が出ててキレイ!!と。映像的というか、YouTubeにでも上げてくれれば、そういう光景見てみたい気はします。
と、そんなこんなで⑰に続きます。


【原文】

 まづ、院の御迎へに、殿をはじめ奉りて、殿上人、地下などもみな参りぬ。それわたらせ給ひて後に、宮は出でさせ給ふべしとあれば、いと心もとなしと思ふほどに、日さしあがりてぞおはします。御車ごめに十五、四つは尼の車、一の御車は唐車なり。それにつづきてぞ尼の車、後(しり)・口より水晶の数珠、薄墨の裳、袈裟、衣、いといみじくて、簾はあげず、下簾も薄色の裾少し濃き、次に女房の十、桜の唐衣、薄色の裳、濃き衣、香染、薄色の表着(うはぎ)ども、いみじうなまめかし。日はいとうららかなれど、空は緑に霞みわたれるほどに、女房の装束の匂ひあひて、いみじき織物、色々の唐衣などよりも、なまめかしうをかしきこと限りなし。