枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

大夫は

 大夫(たいふ)は……。式部の大夫。左衛門の大夫。右衛門の大夫。


----------訳者の戯言---------

大夫(たいふ)というのは、五位以上の男性官吏のことを言います。一種の敬称です。
「上達部は」の段で出てきた「春宮の大夫」のような官職としての「大夫」は「だいぶ」と読みます。単に五位を意味する場合には、先にも書いたとおり「たいふ」と濁らないんですね。ややこしいな。すぐ忘れそうです。

式部の大夫(たいふ)は、式部省の第三等官である丞(じょう)で五位に叙せられた人のことを言うのだそうですね。
本来は六位相当の三等官の「丞」なんですが、式部省は朝廷の中でも重要性の高い役所だったこともあって、特別に従五位下に叙せられるケースがしばしばあったとか。で、それ、かっこいいわ~ということなのでしょう。

左衛門と右衛門は、それぞれ左衛門府右衛門府という役所です。平安宮には当然ですが塀があり門――陽明門、朱雀門もなど、いくつかあったんですが、さらに内側に役所の建物やお屋敷、当然帝のおはします「内裏」もありました。衛門府は、この大内裏の門の内外の警備を司ったそうです。

その左衛門府右衛門府の第三等官、尉(じょう)=判官(じょう)は、従六位下正七位上が相当だったわけですが、この尉に特別に五位の人がなった場合、あるいは尉が特別に五位の位階を得た場合、「左衛門大夫」「右衛門大夫」と敬意をもって呼んだ、ということらしいですね。つまり、この二つもいかしてる、ということなんでしょう。

ということで、次第に大夫は五位の通称となっていったらしいです。少し前に書きましたが、五位というのは、貴族かどうかのボーダーラインでもあります。で、「大夫」はさらに転じて身分のある人へ敬称、または人の名前の一部として使われるようにもなったというわけですね。
五位は貴族の位の中ではいちばん下ではありましたが、一般の武士や庶民にとっては、名誉なことでしたから、正式な五位ではなくても、名誉ある称号として、大夫(太夫と書くことが多い)を使うようになったのだそうです。呼び方としては、だいたい今は「たゆう」と言います。

今でも、社長!とか、大先生!とか、師匠!とか言う昭和時代のおじさんいるでしょう? それに似ていますか? ちょっと違いますか。

神社の神主さんのことも太夫と言いますし、たとえば、江戸時代に、浄瑠璃では竹本義太夫という有名人もいました。義太夫節とかいうのも、浄瑠璃ですよね。そのほかにも、江戸時代の遊郭や花街で、トップクラスの遊女、芸妓にナントカ太夫という人がよく出てきます。ドラマとかで。あれもこの流れで名付けられたんですね。

今の花街に太夫という人はいなくなったそうですが、唯一、京都の島原(今は下京区西新屋敷)の「輪違屋(わちがいや)」というお茶屋さんには、今も芸妓さんの上位としての太夫がいらっしゃるそうです。浅田次郎の「輪違屋糸里」という小説の舞台になったところですね。この小説の主役は後年「桜木太夫」になった糸里という女の子なんですが、話自体はフィクションのようです。桜木太夫は実在した人だそうですが。
1年ぐらい前に映画化もされたと聞きましたが、見逃しました。前に上戸彩主演でドラマ化もあったようなんですが、それもちょっと見逃しましたね。機会があれば見てみたいと思います。

また、話がそれました。

女官の場合、五位以上の人に対しては、大夫でなく「命婦(みょうぶ)」と言います。つまり、女性を「太夫」と呼ぶのは、そもそもが違うのです。というのは、言いがかりですね。転じての用法ですから、別にいいんです。
そういえば、「うへに候ふ御猫は」という段で「命婦おとど」という名前の猫が出てきたのを思い出しました。一条天皇が可愛がったらしいですが、殿上に上がるには原則、位階「五位以上」というのが条件でしたから、この猫さんに五位を与えたんですね。しょうもないジョークですけど。一条天皇もまだ二十歳すぎぐらいのお子ちゃまでしたから、許してあげましょう。

と、いうわけで、「大夫」ベスト3発表でした。これ、当時はそれなりにおもしろかったのでしょうか。


【原文】

 大夫は 式部の大夫。左衛門の大夫。右衛門の大夫。