枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

見るにことなることなきものの

 見ると特に何ともないんだけど、文字を書いたら大げさなもの。
 覆盆子(いちご)。鴨跖草(つゆくさ)。芡(みずふぶき)。蜘蛛。胡桃。文章博士(もんじょうはかせ)。得業の生(とくごうのしょう)。皇太后宮権の大夫(だいふ)。楊梅(やまもも)。

 虎杖(いたどり)は、まして虎の杖と書くんだとか。虎は杖なんかなくても大丈夫って顔つきをしてるのにね。


----------訳者の戯言---------

原文にある「ことごとし」ですが、「事事し」と書くそうです。「大げさな、仰々しい」っていうことです。

覆盆子(いちご/ふくぼんし)というのは、「バラ科の落葉低木『とっくりいちご(徳利苺)』の慣用漢名。正しくは中国産の近似種の名。ふつうには、いちごをいう」のだそうです。「とっくりいちご(徳利苺)」は、「バラ科の落葉低木。朝鮮・中国原産。キイチゴの類で、庭木ともされる。全体に太いとげがある。葉は互生し、羽状複葉。六月頃、白色の小花を散房花序につける。果実は球形で赤く熟し、食べられる」とも解説されています。画像も見ましたが、ラズベリー的な感じですね。もっと簡単に言うと木苺です。
ま、イチゴですから、この字はないやろ、ってことでしょう。

鴨跖草(つゆくさ)です。普通は露草ですが、こう書いたらしい。漢名でしょうか。「おうせきそう」とも読むらしいですね。跖というのは足の裏のことを言うそうですから、鴨の足の裏の草?という意味でしょうかね。
ツユクサは月草とも呼ばれます、古代、月草と呼ばれることも多かったようですね。別名、蛍草とも言うらしいです。なかなか情趣のある花には違いありません。
万葉集では月草(つきくさ)を鴨頭草(つきくさ)と書いているものが多かったです。足の裏ではなく頭ですか。真逆じゃんと思いました。これ、かものかしらぐさ、おうとうそう、とも読みます。もうこうなるとワケがわかりません。どうにでもして!という感じです。

芡(みずふぶき)は「恐ろしげなるもの」に「水ふふき=水蕗(みずふぶき)」と出てきたものと同じです。別名オニバスで、「恐ろしげ」というぐらいですから、見て、何てことないはずは絶対ないんですけどね。で、文字で書いて「芡」だと、逆でしょ? え?この一字ですか? 地味だろ。

蜘蛛。「くも」そのまんまです。全然驚きません。
胡桃。「くるみ」これも。

文章博士(もんじょうはかせ)というのは大学寮という、当時の官僚の教育機関で、歴史や漢文学を教えた教授的な人です。なんか、すごい文章の大家(たいか)、プロフェッサーというイメージですが、実体はそうでもなかったんでしょうか。当時の博士は世襲だったようですからね、清少納言的には、「大したことないけど、名前は立派よねー」みたいに思ったんでしょうか。
けど、それ書いて大丈夫?

得業の生(とくごうのしょう)というのは、令制下の学制で、明経・紀伝(文章)・明法・算各道の学生の中から選抜された成績優秀なごく少数の者に与えられた身分だそうです。これも、清少納言はどうってことないのに名前だけはスゲーよ、と感じたわけですか。
これも書いていいのか?

太后宮権の大夫。
太后宮(こうたいごうぐう/こうたいこうぐう/おおきさきのみや)というのは、文字通り皇太后の宮殿です。皇太后そのものを言う場合もあるようですし、その宮を司る機関のことでもあるのでしょう。大夫というと長官職ですから、まあ、お偉いさんです。権の大夫(ごんのだいぶ)にしても、同じ扱いですから、軽んじられるようなものではないような気はしますがね。たしかに「皇太后宮権の大夫」となると文字数が多いので大げさな感じはします、それだけでも。アメフトで「インターセプトリターンタッチダウン」というプレーがあったんですが、それくらい大げさです。実況のアナウンサーが噛みそうで。全然違いますか。

楊桃と原文に書かれていたので、google先生に聞いてみますと、スターフルーツのことだと出てきます。台湾とかではポピュラーな、断面が星形になるやつですね。和名は「五斂子(ごれんし)」と言うそうです。ですが、三巻本では「やまもも」と仮名が示されていますから、やまもも=山桃なのでしょうか?ということで、ウィキペディアをよく見てみると、漢名は楊梅(ようばい)とのこと。
で、能因本と堺本を確認すると、いずれも「楊梅(やまもも)」とありました。三巻本が誤記だったわけですね。こういうの、やめてほしいですね。

虎杖(いたどり)は、タデ科多年草。山野に自生。高さ約1.5メートル。葉は卵状楕円形。晩夏、白色の小花多数を穂状につける。春出る若芽は酸味があって食用となる。云々と、大辞林にありました。

さて、この段。

こけおどし、という言葉がありますが、それですね。
コケといっても、苔ではありません。仏教で「虚仮」と書いて「外面と内面が違うこと」を意味するんだそうです。で、それをもってして威嚇する、と。虎の威を借る狐的な。
で、ほとんどは植物の漢名なんですが、人に関するものについては、ちょっと軽んじてる気もしますね。先にも書きましたが、「名前だけは立派だけど、大したことねーよ」とする清少納言の気分がよく感じられた段でした。


【原文】

 見るにことなることなきものの文字に書きてことごとしきもの 覆盆子(いちご)。鴨跖草(つゆくさ)。芡(みづふぶき)。蜘蛛(くも)。胡桃(くるみ)。文章博士(もんじやうはかせ)。得業(とくごふ)の生(しやう)。皇太后宮権の大夫(だいふ)。楊桃(やまもも)。

 虎杖(いたどり)は、まいて虎の杖と書きたるとか。杖なくともありぬべき顔つきを。