枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

七月ばかりいみじう暑ければ② ~朝顔の露落ちぬさきに~

 (男は)朝顔の露が落ちてなくなる前に手紙を書こうと、道の途中でも落ち着かなくって、「麻生の下草」なんかを、口ずさみながらの自宅への帰り道、(女子の家の)格子が上がってたから、御簾の端をちょっと引き上げて見たら、起きて帰ってった彼氏のことがいい感じに想像できたのね。露にしみじみと心惹かれる風情を感じたのかな、しばらく見てたら、枕元の方に、朴木(ほうのき)に紫の紙を張った扇が広げられたまま置かれてて、陸奥紙の畳紙の細かいのが、花色か紅色か、少しだけ良い香りを漂わせて、几帳のあたりに散らばってるの。

 人の気配がするから、(女の方が)衣の中から見たら、(今の彼氏じゃない男が)笑いながら長押にもたれかかってて。(女子側からすると)恥ずかしい気がする人ではないんだけど、打ち解けるような気持ちでもないから、いまいましく見えちゃうんだ、って思うわ。「最高の『名残の朝寝坊』だよ」とか言って、御簾の中に半分くらい入ってきたから、「朝露より先に帰ってきた人ってどうよ」って返すの。これがおもしろいかどうかについては、とりたてて書くようなことじゃないけど、何にしてもこうやって言い合ったりする様子は、悪くはないわよね。

 (男は)枕の上にある扇を、自分の持っている扇で及び腰で掻き寄せるんだけど、結構近くに寄ってくるんだ、って(女は)ドキドキしちゃって、引き下がったのね。男は扇を取って見たりして「そんな嫌がらなくても」なんて、ちょっと思わせぶりに言って、軽く恨み言っぽいことを言ううちに、外が明るくなってきて、人の声がして、日も差してきたの。霧の絶え間が見えないうちに、って、急いでた手紙も滞ってしまって、さぞ後ろめたいんでしょうね。

 帰って行った今カレも、いつの間にか、露に濡れたのを手折った萩の枝に文を付けて持って寄こしてたんだけど、使者はそれを差し出すこともできないの。香をしっかり焚き染めた匂いはとっても素敵なんだけどね。(男は)かなり体裁の良くない時間帯になっちゃったから、立ち去っていったんだけど、自分が昨晩先に行ってきた女子のところも、こんな感じになってたりして、と想像しちゃうのも、面白く思えるのよね。


----------訳者の戯言---------

桜麻の麻生の下草露しあらば明かしてゆかむ親は知るとも と古今集にあるようです。
桜麻の麻生の下草露しあれば明かしてい行け母は知るとも と万葉集に出ているそうです。
どっちも「麻生(をふ)の下草」ですね。まあ、どっちでもいいようなものですが、「露しあらば」と「露しあれば」の違い。なんだこれ。
いやいや、古典を少しでもかじっているのなら、これぐらいはクリアにしておきませんとね。

上の古今集のほうは「あらば」=未然形です。下の万葉集のは「あれば」=已然形です。高校の古典の授業みたいですが。

未然形の場合は、「露が降りたら、泊まっていこうor泊まっていくだろう」、対して已然形は「露が降りてるから、泊まっていってね」ですね。
未然形のほうは性別不詳ですが、已然形は女性ですね、たぶん。参考に他の訳文テキストをいくつか見たんですが、ほぼ古今集(未然形)からの引用でした。この段で「麻生の下草」を口ずさんでるのが男性だからかもしれません。
そうすると、「桜麻の麻が生えている庭の下草に露が降りたら、泊まっていくよ、ここに来たことをたとえ親御さんに知られたとしてもね」という意味になるでしょうか。

ちなみに万葉集の女性目線のほうだと、「桜麻の麻が生えている庭の下草に露が降りてるから、お泊りになってくださいな、あなたが来られてることを母が知ったとしても」という感じです。
いかがでしょうか、ニュアンスもちょっと変わってきます。

とまあ、この和歌だけでめちゃくちゃ時間をとってしまいました。こうだから、なかなか進まないんですけどね。

みちのくに紙は、陸奥紙=檀紙という高級和紙だそうです。「心ゆくもの」の段に出てきました。

畳紙(たとうがみ/たとうし)は「結髪の道具や衣類などを包むための紙」とありました。あまり使わない語ですね。
今は紙袋がありますからねぇ。それかちゃんとしたハンドバッグ、ポーチ。物によってはレジ袋、ラップ、チャック付のジップロック的なもの。畳紙なるものの出番は全くと言っていいほどありません。風情がなくなったというと、そういうものかもしれませんが、文化は進化退化を含め変わるもの、ということで。

花色は、空色に近いブルーです。シアン系の青ですね。

前半部分でもちょっと書いたのですが、全部読んでも、なんだかなーという話です。
これ、元カレ元カノなんでしょ? ユルい女のコとチャラい男のコとしか思えませんけどね。
これを「をかし」と言うのなら、その「をかし」、おかしくないですか?という感想です。別にシャレているわけではありません。

また、この段は、第三者目線で書いています。フィクションなのかノンフィクションなのか。
ただ、実際に見たかのように、かなり、ディテールを書いてはいます。
もし見ていたのなら、のぞき=ストーキングですね。
自分の体験を書いているとしたら、中途半端にユルい女子=清少納言ですから、ちょっとバカっぽい感じがします。
完全な作り話とすれば、それはそれで、気は確かですか?というようなヘンな男女の話です。

これが当時の「をかし」なのよ、情緒ないわね、と言われれば、私、おっしゃる通りですと言うしかありませんけれども。


【原文】

 朝顔の露落ちぬさきに文書かむと、道のほども心もとなく、「麻生(をふ)の下草」など、口ずさみつつ、我が方に行くに、格子のあがりたれば、御簾のそばをいささか引き上げて見るに、起きて往ぬらむ人もをかしう。露もあはれなるにや、しばし見たれば、枕がみのかたに、朴(ほほ)に紫の紙はりたる扇、ひろごりながらあり、みちのくに紙の畳紙(たたうがみ)の細やかなるが、花か紅か、少し匂ひたるも几帳のもとにちりぼひたり。

 人気のすれば、衣のなかより見るに、うち笑みて長押におしかかりてゐぬ。恥ぢなどすべき人にはあらねど、うちとくべき心ばへにもあらぬに、ねたうも見えぬるかなと思ふ。「こよなきなごりの御朝寝(あさい)かな」とて、簾のうちになから入りたれば、「露よりさきなる人のもどかしさに」といふ。をかしきこと、とりたてて書くべき事ならねど、とかく言ひ交はすけしきどもは、にくからず。

 枕がみなる扇、わが持たるして、およびてかきよするが、あまり近う寄り来るにやと心ときめきして、引きぞ下らるる。取りて見などして、「うとくおぼいたる事」などうちかすめ、うらみなどするに、明かうなりて、人の声々し、日もさしいでぬべし。霧の絶間見えぬべきほど、急ぎつる文も、たゆみぬるこそ後ろめたけれ。

 出でぬる人も、いつのほどにかと見えて、萩の、露ながらおしをりたるにつけてあれど、えさし出でず。香の紙のいみじうしめたる匂ひ、いとをかし。あまりはしたなきほどになれば、立ち出でて、わが起きつる所も、かくやと思ひやらるるも、をかしかりぬべし。


検:七月ばかりいみじう暑ければ 七月ばかりいみじうあつければ

 

 

まんがで読む古典 1 枕草子 (ホーム社漫画文庫)

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