枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

文字に書きてあるやうあらめど心得ぬもの

 漢字で書いたらその字に理由はあるんだろうけど、納得はできないもの。撓塩(いためじお)。袙(あこめ)。帷子(かたびら)。屐子(けいし)。桶(おけ)。槽(ふね)。


----------訳者の戯言---------

撓塩(いためじお/いためしお)ですが、「撓る」と書いて「しおる」という読み方もあるそうです。「しなわせる。たわめる。」という意味だそうですね。また、他にも「撓む(たわむ)」「撓わ(たわわ)」などの語もあります。実がよく育ち、その重みによって枝や稲穂がしなやかな曲線を描いたり、そのさまを形容する時に使いますね。「たわわに実った~~」とかです。やはり「しなる」感じを表現しているようです。
関連するようですが、「撓(しおり)」という能で使う語もあります。泣くようすを表現する型だそうですね。
能楽は元々は猿楽と言ってたものが主だったそうですが、その猿楽が成立したのは室町時代。なので、平安時代に能のルールは無かったと思いますよ。ただ、猿楽の原型のようなもの(申楽)はすでに聖徳太子の頃にあったと言われていますから、古いものではあるんですね。

逸れてしまいましたが、撓塩というのは所謂、精製塩のことのようです。粗塩を炒って水分をとばしたものですね。加熱することで苦味成分がカットされるため、粗塩よりマイルドな味わいになりますし、粒子が細かくなるので使いやすいというメリットもあります。

たしかになぜ「炒め塩」のことを「撓塩」と書いたのか?
納得はし難いですね。何でや?というのが清少納言の言いたいことなのでしょうか?

ところで、「塩」というのは、正字は「鹽」と書きます。難しい字ですね。
徒然草には、この「鹽=塩」についての逸話が書かれています。よろしければ「第百三十六段 医師篤成、故法皇の御前にさぶらひて」をご一読ください。


衵(あこめ/袙)は、「男性が束帯装束に着用するもの」とか「宮中に仕える少女が成人用の袿の代用として用いたもの」とのことです。2つの用法があってややっこしい。
男子の場合の衵は、下襲の下、単衣の上に着るものとされていて、 表は綾、裏は平絹のものとか。一枚ものもあったようではあります。
衣へんに日または白。ですが、実際には色目は様々だったようです。だから、文字に違和感があったのでしょうか?


帷子(かたびら)はちょいちょい出てきますね。夏用の裏地なしの衣だそうです。直衣の下に着ます。また、几帳や御帳やなんかに掛けるカーテンみたいなものも帷子と言います。几帳はパーテーション的なもの、御帳(台)はボックス型の小部屋みたいな感じのものでしたね。

帷子(かたびら)は元々は「片枚(かたびら)」と書いたそうです。こちらであれば清少納言も文句はないでしょうに。

さてこれまでにも何度か書きましたが、京都に「帷子ノ辻」という地名が残っています。檀林皇后という人の逸話が残っていますので、「関白殿、二月二十一日に⑱」も併せてお読みいただけると幸いです。


屐子(けいし)というのは木製の履物です。下駄みたいなもののようですね。「屐子って何やねん!下駄やないかい!」と清少納言が言ったかどうかはわかりませんが。


泔(ゆする)というのは、頭髪を洗ったり整髪したりするための水です。ヘアコンディショナー的なものでしょうか。
さんずいへんに甘い、ですから何だか飲み物のようですね。
実は米のとぎ汁を使ったそうなので、若干甘い感じはあるんですが、髪に使うとなるとなんか気持ち悪いですね。時間が経つと臭いもしてきそうです。
さすがに清少納言もそう思ったのでしょう。ほんまか?


さて三巻本の原文には「桶舟(をけふね)」とありましたが、色々当たりましたが、桶舟という用語は他に見つかりません。

桶(おけ)。舟(槽/ふね)。とする説もあるようです。
そもそもこの段、
「もしにかきてあるやうあらめと心えぬ物いためしほあこめかたひらけいしゆするをけふね」
と、清少納言が書いたものらしいですから、それもあり得るって話ですね。

「桶」は木製円筒状の容器全般のことを指します。古くは木の幹をくり抜いた「刳桶」、続いて「曲物」(まげもの)とも呼ばれる「曲桶」が発明され、これは平安時代には一般に広まったそうです。薄い板を円状に曲げ密着させた、底をつけたようなものですね。
さらに今、一般に桶と言われているようなものは、「結桶」(ゆいおけ)と呼ばれる木製の桶。つまり木を細長い板にして円状に並べ、「箍」(たが)で巻いて締める構造の桶に至ったというわけです。

「おけ」は「麻(お)笥(け)」が原義だそうです。もとは紡いだ麻糸を入れる器を指したらしいですね。もしかするとそのようなイメージに「桶」はそぐわなかったのかもしれません。
また、枕草子で「桶」という語が出てくるのは、これまでは専ら「火桶」でした。あるいはそのイメージと「桶」に違和感があったのかもしれない。
このどちらかではないかな?と私は推察しました。


舟(槽/ふね)は、所謂「槽」で、「水や酒などを入れる器」を表しているようです。「槽」というのは元来、主に「かいばおけ」を指しました。ここが漢字との違和感だったのか。「馬の餌入れるやつ??」って感じでしょうか?


そもそも日本においては、やまとことばに漢字を当てたわけですが、それがどうもしっくりこなかった。って話ですね。でもそもそも違う言語だし。一人ひとりの感覚的なものです。
諦めて受け入れてればそのうち慣れますよ。ってかほとんど今は使っていません、こんな言葉。言葉の栄枯盛衰、文化の変遷を感じます。もちろんそれで良いのですが。


【原文】

 文字に書きてあるやうあらめど心得ぬもの 撓塩(いためじお)。袙。帷子。屐子。泔(ゆする)。桶舟(をけふね)。