枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

下の心かまへてわろくて清げに見ゆるもの

 下地は決定的にイケてないけど、綺麗に見えるもの。唐絵の屏風。石灰の壁。盛物(もりもの)。檜皮葺(ひわだぶき)の屋根の上。河尻(こうじり)の遊女。


----------訳者の戯言---------

かまへて、というのは、「構へて」なんですが、「慎重に」とか「留意して」という意味です。あるいは「必ず」「決定的に」といった意味で使うこともあります。


屏風の下地は、木で作られた枠(框/かまち)というものと組子というものから成るそうです。そこに和紙を貼り重ねて作るんですね。表のきらびやかな唐絵からすると、下地は綺麗じゃないしダッセーな!ってことでしょうか。でもそんなのあたりまえじゃん。
関係ありませんが、「風を屏(ふせ)ぐ」から屏風というそうです。なるほど。


漆喰(しっくい)という塗り壁材があります。これが「石灰の壁」なのでしょう。
別名・白鷺城と呼ばれた姫路城でも有名なやつですね。漆喰というのは消石灰水酸化カルシウム)を主原料とした塗り壁材なんですが、この消石灰っていうのは石灰石を焼いて水を加えたものなんだそうです。

この消石灰、昔昔は学校のグランドでラインを引くときに使用されていたこともあったんですが、目に入ると失明の恐れがあるため、現在では炭酸カルシウムというものがラインを引きに使用されています。そういえばあったな。

消石灰ガーデニングや野菜作りなど、園芸に使うこともあります。
酸性になった土壌の酸度を弱酸性に整える働きがあるんですね。そのほか、浄水場の浄化工程でpHの調整をしたり、ゴミ焼却場などで排ガス中に有毒な塩化水素ガスが含まれている時など消石灰等を加えることで除去したりもするそうです。火力発電所などで排ガス中の硫黄酸化物を除去するのにも使われるようで、結構使えるものなんですね。
ただ先にも書いたとおり目に入ると危険なんです。ここが厄介なんですね。

ものすごく逸れましたが、この消石灰に糊やスサを加えて、水で練ったものが漆喰です。これまた、屋内の壁にも屋外の壁にも使えるという優秀な壁材なんですよね。
スサっていうのは「寸莎」と書きます。壁材にまぜて、ひび割れを防ぐつなぎとする材料です。藁(わら)、麻など繊維質のものが使われます。
漆喰、ご存じのとおり真っ白で、表面はすごく綺麗です。


盛物というのは神仏に供えるためにお供物のこと。盛物には作り物も多いので、どうしても「見せかけ」って感じなのかなと思います。
言葉としては、盛ってるから「盛物」。シンプルです。
しかし昨今、インスタやTikTokなどSNSの普及によって、「盛る」「盛れてる」「盛ってる」という表現が一般化しました。興味深いですね。「盛る」ことの再認識というか。嵩(かさ)増しなんだけど、見かけのクオリティも上げる、というニュアンスがあります。
ただ積み上げてうず高くしているのだけでなく、「盛る」という語感が清少納言の言うそれに近いのが面白いと思いました。


檜皮葺(ひわだぶき)はすでに飛鳥時代に広まっていた屋根の工法だそうです。結構古いですね。檜の皮を精製した材料を竹釘を使って打ちとめていくという工法なんですが、優雅で繊細、そして優良な機能性をも併せ持ち、奈良時代には上級建築に、平安時代には最も格式の高い屋根工法となったそうです。


河尻(かうしり/こうじり/かわじり)は河(川)の末端、つまり河口のことのようです。当時の輸送というのは瀬戸内海から淀川を経て平安京に至る水路を主に利用していました。このため淀川に繫がる神崎川の河口付近は瀬戸内海航路の起点として、江口、神崎、杭瀬、大物などの港が開かれ、町として発展したようです。特に遊興地としての発展はめざましく、遊女も多くいたとされています。これが河尻というエリアなんですね。普通名詞でもありましたが、固有名詞でもあったのでしょう。
それぞれ、現在の大阪市東淀川区北江口南江口あたり、尼崎市には神崎町、杭瀬本町、大物町といった地名が残っていますね。


で、そこの遊女。化粧をして美しく飾り立てたということでしょうか。すっぴんは大したことないのに?
あんた、見たんかい!
失礼きわまりないですね。


【原文】

 下の心がまへわろくて清げに見ゆるもの 唐絵の屏風。石灰の壁。盛物。檜皮葺の屋の上。かうしりの遊び。