日のいとうららかなるに①
日差しがすごくうららかで、海面がとてものどかでね、砧で打って光沢を出してる浅緑色の衣を引き延ばした感じで、全然怖ろしい様子もなくって、若い女なんかが袙(あこめ)や袴とかを着てる姿や、若々しい侍とかが櫓(ろ)というものを押して歌をやたらと歌ってるのはすごく面白くって、高貴な人なんかにもお見せしたいわ!!って思って行ってたら、風がものすごく吹いて風がただただ荒れに荒れてきたもんだから、何も考えられなくなっちゃって。泊まるはずのところに漕ぎ着けるまでの間、舟に波がかかる様子なんかは、一瞬にしてあれほど穏やかだった海だとも思えなくなるの。
----------訳者の戯言---------
うららか。今も「うららか(麗らか)」という言い方をしますが、「空がよく晴れてのどかに照っているさま」を言うんですね。
櫓(ろ)というのは舟を漕ぐ道具の櫓です。
穏やかだった海が一転して荒れ狂ってきて…というのは、前段の「うちとくまじきもの(気を許せないもの)」の一つ、「船の旅」からの続きなんですね。というわけで、また少し長い段です。
②に続きます。
【原文】
日のいとうららかなるに、海の面のいみじうのどかに、浅緑の打ちたるを引き渡したるやうにて、いささかおそろしきけしきもなきに、若き女などの袙(あこめ)、袴など着たる、侍の者の若やかなるなど、櫓(ろ)といふもの押して、歌をいみじう歌ひたるは、いとをかしう、やむごとなき人などにも見せ奉らまほしう思ひ行くに、風いたう吹き、海の面ただあしにあしうなるに、ものもおぼえず、泊まるべき所に漕ぎ着くるほどに、船に波のかけたるさまなど、片時にさばかりなごかりつる海とも見えずかし。