枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

雪高う降りて

 雪が高く積もるぐらい降って、今も相変わらず降り続いてるんだけど、五位の人も四位の人も端正で若々しい人が袍(うへのきぬ)の色がすごくキレイで、石帯(せきたい)の痕(あと)がついてるのを、宿直姿(とのいすがた)の腰にたくし上げて。紫の指貫も雪にいっそう引き立てられて色の濃さが際立って見えるのを着て、袙(あこめ)は紅か、そうじゃなかったら、ハッとするような山吹色のを外にチラ見せしてね、傘を差してるんだけど、風がすごく吹いて横なぐりに雪が吹きつけてくるもんだから、傘を少し傾けて歩いて来たら、深沓(ふかぐつ)や半靴(ほうくか)なんかのはばきまで雪がすごく白く降りかかっているのは、おもしろく思えるわね。


----------訳者の戯言---------

袍(うえのきぬ/ほう)。上着のことです。

帯というのは、この時代には、束帯姿で袍につける革ひものことを言ったそうです。石帯(せきたい)ですね。黒漆を塗った牛の皮に、玉、瑪瑙(めのう)、犀角(さいかく)、烏犀(うさい)などの飾りを付けたもの。
犀角というのは、サイの角なんですね、あの動物のサイ。白いのと黒いのがあって、黒色のものを烏犀(角)と言ったらしいです。

宿直姿(とのいすがた)というのは宿直装束 (とのいそうぞく) をつけた姿。略式の衣冠または直衣(のうし)で、束帯(そくたい)より軽装だったようです。

「ひきはこえ」は「ひきはこゆ」の連用形です。衣服の裾(すそ)をたくし上げることをこう言いました。

衵(あこめ/袙)は、「男性が束帯装束に着用するもの」とか「宮中に仕える少女が成人用の袿の代用として用いたもの」とのことです。ここでは男性のですね。いちばん外側に着る着物のさらに中に着るやつです。

原文の「おどろおどろしき」です。時々出てきますね。
「おどろおどろし」の連体形です。古語では「おおげさな」という意味。もしくは「ものすごい」くらいの感じでしょうか。「いかにも恐ろしい」「気味が悪い」という意味もあったようですが、今に至ってはこっちのほうだけが残った感じです。以前も書いたのですが、夢野久作横溝正史江戸川乱歩の小説の雰囲気ですね。

深沓(ふかぐつ)というのは、革で深く作った沓(靴)だそうです。黒漆を塗り、雨や雪のときにはいたらしいですね。ショートレングスのレインブーツみたいなものでしょうか。HUNTERとかのショートブーツ、みたいな感じですかね、違いますか。
で、半靴(はうくわ/ほうか)です。深沓(ふかぐつ)を簡略化したもので、やや浅くて、金具つきの靴帯がないらしいんですね。ショートブーツに対して、こちらはブーティって感じでしょうか? ブーティはくるぶしが見えます基本。で、画像を調べてみたんですが、半靴も深沓もショートブーツですね。そんな変わらないです。ただ、くるぶしが見えるショートブーツをブーティって言って売ってるのもありますから。どっちにしろ細かいこと、言っちゃだめってことでしょうかね。

「はばき」っていうのは、外出するとき脛(すね)に巻き付けたものらしいです。後世には脚絆(きゃはん)と言われるようになりました。

さて、この段は、ある大雪の日の光景です。
バックグラウンドが白ですから、色の鮮やかな衣が際立つんですね。脛当てが雪で白くなるするぐらい吹雪いているというのが、いかしてるぅ、ってことなんですね。いわゆる叙景的な描写をした段です。たぶん教科書的に言うと、清少納言が目にしたものを感じたものをそのままにビビッドに描いた的な文章、となるのでしょうけど、私の評価はそれほど高くないです。清少納言は「をかし」でしたが、私はあんまりおもしろくなかったです。


【原文】

 雪高う降りて、今もなほ降るに、五位も四位も、色うるはしう若やかなるが、袍(うへのきぬ)の色いと清らにて、革の帯の形(かた)つきたるを、宿直姿に、ひきはこえて、紫の指貫も雪に冴え映えて、濃さまさりたるを着て、袙の紅ならずは、おどろおどろしき山吹を出だして、傘(からかさ)をさしたるに、風のいたう吹きて横さまに雪を吹き掛くれば、少し傾ぶけて歩み来るに、深き沓・半靴(はうくわ)などのはばきまで、雪のいと白うかかりたるこそをかしけれ。