枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

などて、官得はじめたる六位の笏に

 「どうして官位を得たばかりの六位の人の笏(しゃく)に、職の御曹司(中宮職の庁舎)の東南の隅の屋根付き土塀の板を使ったんでしょ?? それなら、西や東の板も使ったらいいのにー」なんてことを言いだして、
「つまんないことをイロイロねー。着る物とかにいい加減な名前なんかをつけるのは、とっても変! 着物の中で『細長』っていうのは、ま、そう言ってもいいわ。でも何ですか!!『汗衫(かざみ)』は『尻長』って言いなさいよ!」
「男の子が着てるみたいにね♡ でもどーゆーこと!? 『唐衣』は『短衣(みじかきぬ)』って言いなさいよね!!」
「てか、あれは外国の人が着るものだからねー」
「『袍(うへのきぬ)』とか『上の袴』は、ま、そう言ってもいいでしょう。『下襲(したがさね)』もまあOK。『大口』も長さよりは口が広いから、それでいいかしらね!」
「『袴』はすごくつまんない。『指貫』はどうしてそう言うの? 足の衣、って言うべきでしょ! もしくは、ああいう物は袋って言いなさいよねー」
なんて、いろんなことを言い争って、ののしり合ってて、「ああ、もう、うるさいわねー。今はいいわ。寝ましょうね」って言ったら、それに応えて、夜居の僧が「それは全然よろしくございません。やはり一晩中でも語りつくしなさいませ!!」って、怒り口調で声高に言ったのは、おもしろいってことに加えて、ビックリもしちゃったわ。


----------訳者の戯言---------

笏(さく/しゃく)というのは、束帯のとき威儀を正すために持ってた長さ1尺2寸 (約 40cm) の板状のもので、ドラマとか昔の絵とかでも見たことあるやつです。「こつ」ともいうらしい。

職の御曹司は何度も出てきていますが、中宮職の庁舎のことです。

築土(ついひじ)は築土塀(ついじべい)のことだそうです。この築土塀というのは屋根付きの土塀でした。

着るものの名前に難癖つけたりして面白がってる感じですね。
何でチョッキがベストやねんとか、ズボンのことをパンツっていうの、どうよ?みたいな。
ジャンパーなの?ジャケットなの?ブルゾンなの?ブレザーなの?とかね。
TシャツとポロシャツはまあいいけどYシャツはどうかな?とか。
アンクルはOK、サブリナもOK、的な。あるいは、フレアーはフレアーでいいけど、ギャザーはちょっと、みたいな。etc.

言いたいこと、言いまくってます、女房たち。根拠のない、言いがかり、みたいなやつですね。今でも全国の社員食堂や休憩室、飲み屋さんとかで、交わされてる他愛もないおしゃべり的な、非建設的な会話。確かにつまらないネタも多いですが、面白いのも結構あったりします、はい。私も嫌いではありません。

夜居の僧(よいのそう)というのは、「はづかしきもの」の段にも出てきました。「夜居」は加持祈祷(かじきとう)のため、僧侶が夜間、貴人のそばに付き添っていることをこう言ったそうです。「はずかしきもの」では、「目覚めがいい夜居の僧」っていうのは、こっちが恥ずかしくなるくらい立派すぎ、というニュアンスでした。

で、最後は、もうええわー、やめさせてもらうわー。となるんですが、すると、突然登場の夜居の僧の謎のダメ出し。たしかにびっくりしますわ。

で、もう一つびっくりなのが、あの、聖徳太子が持ってるような「笏」を屋根付き土塀のどこかから調達した板で作るということ。なぜに? そんなリサイクルみたいなことするんですか? もっと立派なものだと思っていたのに。


【原文】

 「などて、官得はじめたる六位の笏に、職の御曹司の辰巳の隅の築土(ついひぢ)の板はせしぞ。さらば、西東(ひんがし)のをもせよかし」などいふことを言ひ出でて、「あぢきなきことどもを。衣などにすずろなる名どもをつけけむ、いとあやし。衣のなかに、細長はさも言ひつべし。なぞ、汗衫は尻長といへかし」「男童(をのわらは)の着たるやうに、なぞ、唐衣(からぎぬ)は短衣(みじかきぬ)といへかし」「されど、それは唐土の人の着るものなれば」「袍(うへのきぬ)、うへの袴は、さもいふべし。下襲よし。大口、またながさよりは口ひろければ、さもありなむ」「袴、いとあぢきなし。指貫は、なぞ、足の衣とこそいふべけれ。もしは、さやうのものをば袋といへかし」など、よろづの事を言ひののしるを、「いで、あな、かしがまし。今は言はじ。寝給ひね」といふ、いらへに、夜居の僧の、「いとわろからむ。夜一夜こそ、なほのたまはめ」と、にくしと思ひたりし声高(こはだか)にて言ひたりしこそ、をかしかりしにそへておどろかれにしか。

 

枕草子(上) (講談社学術文庫)

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