枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

はづかしきもの

 こっちが恥ずかしくなっちゃうもの。男の心の中。目覚めのいい夜居の僧。コソ泥が物陰に隠れて見てるかもしれないのを誰が気づくのかしら?(気づかないでしょ) なのに暗闇にまぎれて、こっそりと物を盗る人もいるかもしれないわね。それって、コソ泥が自分とおんなじ心もちだってことで、「おもしろい」って思うかもよ。

 夜居の僧は、すごくこっちが恥ずかしくなるくらい立派な存在なの。若い女房が集まってて、人の噂話をして笑い、disったり憎んだりするのを、一個一個ちゃんと聞き入れてくれるんだから、まったく頭が上がらないわ。「あらイヤだわ、うるさいわね」なんて、定子さまのお側近くに仕えてる人が怒って注意したって、聞かずにさんざんおしゃべりをしてから、すっかりみんな気を緩めて寝ちゃうのも、夜居の僧のこと考えると、すごく気恥ずかしいのよね。

 男は、「困ったことに全然思うとおりにならなくって、じれったくて気に入らないことなんかがある」なんて思ってても、いざ目の前で面と向かった女子をチヤホヤおだてて信じこませるのって、(私はそんなことできないから)こっちが恥ずかしくなるくらい(頭が上がらないわね)。まして、情が深くて、女子に人気で有名な男なんかは、(女を適当にあしらうみたいに)愚かだなって思わせるような対応はしないでしょうしね。
 心の中で思うだけじゃなくて、何でもかんでも、この女のことはあの女に言い、あの女のことはこの女に話して聞かすんだろうけど、女たちは実は自分の悪口を他所で言われてるんだってことは理解してなくて、こうやって話してくれるのは、やっぱ自分が格別の存在だからなんだ、って思うんでしょうね。でも、そういうことだから、少しくらい思ってくれる男に出会っても、「この人、薄情なんじゃないかしら」とか思って、さほど(気が引けて)恥ずかしくなったりはしないのよ。すごく気の毒でかわいそうな、見捨てることのできない女子のことなんかを、全然何とも思わないのも、いったいどういうメンタリティなんだろ?ってあきれちゃうわ。なのに、他人のすることは非難し、あれこれ言いまくってるのよね。特に頼りにできる人なんかもいない宮仕えの女房なんかを口説いて、妊娠してしまってるのがわかっても、全然知らないふりをしてる男もいるのよね。


----------訳者の戯言---------

「いざとき」は「いざとし」の連体形です。漢字では「寝聡き」と書きます。目が覚めやすい、目覚めがいい、という意味らしいです。
夜居の僧(よいのそう)。「夜居」というのは加持祈祷(かじきとう)のため、僧侶が夜間、貴人のそばに付き添っていることを言ったそうです。

みそか盗人(ぬすびと)というのは、「こそ泥」のこと。「密か盗人」と書きます。

「うたて」というのは副詞で「いっそうひどく」「異様に」「気味悪く」「不快に」「嫌に」などの意味があるそうです。いろいろありすぎて、難しいです。

原文にある「こよなき」は「こよなし」の連体形。「こよなし」とは、「この上ない、格段にすぐれてる」という意味のようです。

「ただならず」は通常は「普通ではない、ただごとでない」という意味なのですが、この語を男女関係において使用する場合、「からだの状態が普通でない=妊娠している」という意味になるようです。知らなんだ。

「はづかしきもの」。
立派すぎて、気後れする、気が引けるくらい、こっちが恥ずかしくなるもの。というニュアンスだと思われます。
ただ、そういう観点で書きはじめたものの、最後の方は男のメンタリティやそれに対する文句をくどくど書いてます。ま、言いたいことはわかりますが。

単語の意味が多様だったり、行為の主体や目的語が省略されてたり不鮮明だったりで、非常に解釈しづらい段でした。たとえば「人」という語も何を指すのか、ものすごくわかりづらいです。なので、実は訳もあまり自信はないんです。

しかし清少納言もプロなら読む人のことを考えて、もうちょっとわかりやすく書いてほしいですよね。文筆家=表現者としてはいかがなもんかなと思いますよ、こういう文章。今なら編集者や校閲の訂正が絶対に入るでしょう。これではむしろ素人レベルですよ。日本三大随筆とか言われていい気になってませんか? なってませんね、本人知りませんから。


【原文】

 はづかしきもの 男の心の内。いざとき夜居の僧。みそか盗人のさるべき隈(くま)にゐて見るらむをば、誰かは知らむ。暗きまぎれに忍びて物引き取る人もあらむかし。そはしも同じ心にをかしとや思ふらむ。

 夜居の僧は、いとはづかしきものなり。若き人の集まりゐて、人の上を言ひ笑ひ、そしりにくみもするを、つくづくと聞き集むる、いとはづかし。「あなうたて、かしがまし」など、御前近き人などのけしきばみいふをも聞き入れず、言ひ言ひのはてはみなうち解けて寝るも、いとはづかし。

 男は、うたて思ふさまならず、もどかしう心づきなき事などありと見れど、さし向ひたる人をすかし頼むるこそ、いとはづかしけれ。まして、情けあり、好ましう、人に知られたるなどは、おろかなりと思はすべうももてなさずかし。心のうちにのみならず、またみなこれがことはかれに言ひ、かれが事はこれに言ひ聞かすべかめるも、我が事をば知らで、かう語るはなほこよなきなめりと思ひやすらむ。いで、されば、少しも思ふ人にあへば、心はかなきなめりと見えて、いとはづかしうもあらぬぞかし。いみじうあはれに、心苦しう、見すてがたき事などを、いささか何とも思はぬも、いかなる心ぞとこそあさましけれ。さすがに人の上をもどき、ものをいとよくいふさまよ。ことにたのもしき人なき宮仕人などをかたらひて、ただならずなりぬるありさまを、きよく知らでなどもあるは。

 

枕草子 (岩波文庫)

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