枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

文ことばなめき人こそ

 手紙の言葉が失礼な人は憎ったらしいわ。世間をテキトーに舐めた考えで書き流した言葉が憎ったらしいこと!!
 さほど身分が高くない人のところに、あまりにもかしこまったのを送るのも、たしかにいけないことよね。でも自分が失礼な手紙をもらった時はもちろん、他の人のところに来たのだって憎ったらしく思うの。
 だいたい実際に向き合っても失礼な人っていうのは、どうしてこんな風に言うんだろ?って、こっちが恥ずかしくなるわね。ましてや、高貴な人についてそんな風に言う者はめちゃくちゃ不愉快にさえ感じるの。田舎っぽい者なんかがそんなこと言うのは、そもそもアホなんだから全然いいんだけどね。

 男の主人なんかに失礼なこと言うのは、すごくダメなこと。自分が使ってる者なんかが「何とおはする(何々でいらっしゃる)」「のたまふ(おっしゃる)」なんて言うのは、すごく憎ったらしいわね。そこのところに「侍り(ございます)」なんていう言葉を使わせたいなって思いながら、聞くことって多いのよ。そういう苦言を言える者に対しては、「まちがってるし。カワイくないし。なんでそうやって、言葉づかいが失礼なの??」って言ったら、聞いてる人も、言われてる人も笑うのね。私がこんな風に思ってるもんだから、「あまりにも世話を焼き過ぎなんじゃない?」なんて言うの、人から見たら体裁が悪いからでしょうね。

 殿上人や宰相なんかを、その人の実名で少しも遠慮なく言うのは、すごくいたたまれないの。でもはっきりとその名前を言わずに、それが女房の局の女子スタッフであったとしても、「あのお方」「~君(きみ)」なんて言ったりしようものなら、レアだし嬉しい!って思って褒めるの、めちゃくちゃ。
 殿上人や若君たちは、帝や中宮さまの御前以外では、官名だけを言うのね。また、御前では、自分たち同士で話をする時だって、それを帝がお聞きになってる場合には、どうして「まろが」なんて言うでしょう?? 言わないわよね。そんなふうに言うのは御前では畏れ多くって、言わないからといって悪いことじゃないわ。
 

----------訳者の戯言---------

失礼な物言いについて書いてます。

たしかにSNSのコメントでも、yahoo!ニュースのコメントとかでも、世の中をちょっと舐めてる表現というか、言い方のよくないものはあります。いつの世もありがちですが、清少納言自身はどうなのでしょうか? 身分差別的な表現はいいのでしょうか? 他人のこと言えるのでしょうか? 私も言えないですね、はい。

ちょっと具体的に書いてないのでわかりづらいですが、彼女、失礼、無礼な物言いがよっぽど嫌なようで。例によって特に身分の高い人に言うのはアカンと。自分にも言うてくんなと。
そしてこれまたいつものことですが、身分低い者たちに丁寧な感じの手紙書くのもアカンらしいですね。


「をこにて」というのは、「をこなり」という形容動詞の連用形「をこに」+接続助詞「て」でしょうか。バカでー、アホやしー、という意味かと思います。


「侍り」のくだりですが、「私は30歳でいらっしゃるのです」とか、「その時、あたしのカレ美味しいねっておっしゃったの」みたいな感じで、自分とか自分の家族とか、そうでなくても男主人以外に対して尊敬語を使ってるのを嫌って、指摘してる感じでしょうか。いやいやそこ「侍り」でしょ!ってツッコミ入れてるようですね。謙譲語使わないとだめでしょ!って。


名前を言わない礼儀というのは、昔はかなりあったみたいですね。今も役職で呼んだりのほうが感じいいっていうか、敬意を表現しやすいっていうのはあります。孫さんとか柳井さん、とか言うよりも、社長、会長とかですかね。

字(あざな)とか諱(いみな)とかもそうですかね。
本名である諱(いみな)は臣下とか敵とかを呼ぶときに言いますから、敬意が無い。逆に字(あざな)を呼ぶのは敬意があるんですね。あと、同僚同士みたいに遠慮が無い親密な場合も字で呼び合うらしいです。

関羽は、姓は関、名は羽、字は雲長。諸葛孔明は、姓が諸葛、名は亮、字が孔明です。
劉備は、関羽のことは「関羽」と呼んでいたようですが、諸葛亮は「孔明」だったとのこと。
関羽張飛は、雲長、子龍と呼び合ってたらしいです。

とにかく本名を呼んじゃうのって「敬意が無い」というのは共通しているようですね。


「まろ」のくだりはわかりにくいです。
ドラマとかでも見るように平安貴族はもちろん近世に至るまで公家社会では自分(わたし)のことを「まろ」と言いました。ちょっと笑いますが、普通だったようです。貴族だけでもなかったらしいですがね。

ただし、帝の前では「まろ」は適当ではなかったということなんでしょう。
「まろ」は畏れ多いって感じだったんですか? 「まろとは言わなくても大丈夫」的な書き方もしていますし、むしろ言った方がいいんでしょうか? 微妙な感じです。よくわからないですね。はっきりしろ清少納言
では、適当な一人称は何だったんでしょうか。
あ(我/吾)、わ(我/吾)、われ(我/吾)、よ(余)、己(おの)あたりかとは思いますが、決定的なものはわかりませんでした。

ま、どれにせよエライ人の前で「俺が俺が」みたいなこと自体、あんなりよくなかったのかもしれませんね。


敬語と言えば、私個人的に気になるのが過剰敬語です。

経理のご担当者さま、とか、〇〇様いらっしゃられますでしょうか、とか、お電話お待ちさせていただきます、とかですかね。

手紙の話だと、「〇〇殿」とか「前略~早々」は目上に対しては失礼なんだよ、みたいな話もありますし、大人社会はなかなかムズイです。

当時もいろいろあったんですね。敬語的なもの。で、これ間違ってるの指摘すると、「あまり見そす」つまり「世話焼き過ぎー」と言われると本人も書いてます。苦笑いされて疎まれてるようですね、清少納言
たしかに小うるさかったんでしょう。現代のおじさんおばさんもよく言われるやつです。墓穴掘るからまじあんまり言わない方がいいですよ。「うっせぇわ」ですね。イマドキネタすみません。


【原文】

 文のことばなめき人こそいとにくけれ。世をなのめに書き流したることばのにくきこそ。

 さるまじき人のもとに、あまりかしこまりたるも、げにわろきことなり。されど、我が得たらむはことわり、人のもとなるさへにくくこそあれ。

 おほかたさし向かひても、なめきは、などかく言ふらむとかたはらいたし。まいて、よき人などをさ申す者はいみじうねたうさへあり。田舎びたる者などの、さあるは、をこにていとよし。

 男主(をとこしゆう)などなめく言ふ、いとわるし。我が使ふ者などの、「何とおはする」「のたまふ」など言ふ、いとにくし。ここもとに「侍り」などいふ文字をあらせばやと聞くこそ多かれ。さも言ひつべき者には、「似げな、愛敬な、などかう、このことばはなめき」と言へば、聞く人も言はるる人も笑ふ。かうおぼゆればにや、「あまり見そす」など言ふも、人わろきなるべし。

 殿上人、宰相などを、ただ名のる名を、いささかつつましげならず言ふは、いとかたはなるを、清うさ言はず、女房の局なる人をさへ、「あの御もと」「君」など言へば、めづらかにうれしと思ひて、ほむることぞいみじき。

 殿上人・君達、御前よりほかにては官(つかさ)をのみ言ふ。また、御前にてはおのがどちものを言ふとも、聞こしめすには、などてか「まろが」などは言はむ。さ言はむにかしこく、言はざらむにわろかるべきことかは。