枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

頭の弁の、職に参り給ひて② ~さて、逢坂の歌はへされて~

 そのあと、逢坂の歌には圧倒されて、返歌もできないままになっちゃったの。かなりダメよね。「でさ、あの手紙は殿上人がみんな見ちゃったんだよね」っておっしゃるから、「ほんとに私のことを思ってくれてたんだって、それを聞いてよくわかりましたよ♪ 素晴らしいことを人に伝えないのは、やりがいが失せちゃうもんだもの。でも反対に、見苦しい歌は拡散しちゃうと辛いでしょうから、あなたのお手紙はきっちり隠して、他人には絶対見せてございませんわよ! ってね、私たちお互いを思いやる気持ちを比べたら、まさにおんなじでしょ?」って言ったら、「そんな風にものごとをよく解ってるみたいに言うのが、やっぱ他の人とは違うって思うんだよね。『よく考えもしないで、まずいことしてくれちゃったわねぇ』なんて、普通の女子みたいに言うのかな、って思ってたよ」なんて言って、お笑いになるもんだから。「それは何で? こっちが喜びの気持ちを言いたいくらいですよ!」とか言ったのね。
 「私の手紙を隠してくださってるって、それもまたやっぱりしみじみ、うれしいことなんだよね! (そうじゃなかったら)どれだけ憂鬱で辛かっただろう?? これからも、そんな感じでお願いしたいですかね…」なんておっしゃって、その後、(源)経房の中将がお越しになって、「頭の弁があなたをすごく褒めていらっしゃるのを知ってます? 先日の手紙に、あったことなんかを書いていらっしゃってて。わたしの好きな人が、人に褒められるのは、とてもうれしいんですよね」なんて、真面目におっしゃるのも、気分がいいわね。
 「うれしいことが二つになってね! 彼が褒めて下さったのに加えて、あなたが好きな人の一人に入れてもらえてるなんて!」って言ったら、「それ、珍しがって、今初めて聞くみたいに喜ばれるんだね!?」なんておっしゃるのよね。


----------訳者の戯言---------

経房(つねふさ)の中将というのは、源経房という人のことらしいです。お姉さんが藤原道長の奥さんです。てことは、後の権力者・道長の義理の弟。定子の兄伊周をはじめ、実家・中関白家としてはライバル関係にあたるはずですが、意外とこの頃は中関白家にも近かったようです。

清少納言のモテモテ自慢、続きます。行成に続いて、源経房もですか。源経房は、「御仏名のまたの日」にも登場。笙の笛が上手かったらしい。「里にまかでたるに①」にもちらっと出てきます。

というわけで、男子たちの出してくるちょっかいに対して、リップサービスも交えながら余裕の対応をする清少納言、という図式。
ま、これも、一種の自慢話なんですけれども。


【原文】

 さて、逢坂の歌はへされて、返しもえせずなりにき。「いとわろし。さて、その文は、殿上人みな見てしは」とのたまへば、「まことにおぼしけりと、これにこそ知られぬれ。めでたきことなど、人の言ひつたへぬは、かひなきわざぞかし。また、見苦しきこと散るがわびしければ、御文はいみじう隠して、人につゆ見せ侍らず。御心ざしのほどをくらぶるに、ひとしくこそは」といへば、「かくものを思ひ知りていふが、なほ人には似ずおぼゆる。『思ひぐまなく、あしうしたり』など、例の女のやうにや言はむとこそ思ひつれ」など言ひて、笑ひ給ふ。「こはなどて。よろこびをこそきこえめ」などいふ。「まろが文を隠し給ひける、また、なほあはれにうれしきことなりかし。いかに心憂くつらからまし。今よりも、さを頼みきこえむ」などのたまひて、のちに、経房の中将おはして、「頭の弁はいみじう誉め給ふとは知りたりや。一日の文に、ありしことなど語り給ふ。思ふ人の人にほめらるるは、いみじううれしき」など、まめまめしうのたまふもをかし。「うれしきこと二つにて、かのほめ給ふなるに、また、思ふ人のうちに侍りけるをなむ」といへば、「それめづらしう、今のことのやうにもよろこび給ふかな」などのたまふ。


検:頭の弁の、職に参りたまひて

 

枕草子 (すらすらよめる日本の古典 原文付き)

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  • 作者:長尾 剛
  • 出版社/メーカー: 汐文社
  • 発売日: 2018/11/21
  • メディア: 単行本