枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

八幡の行幸のかへらせ給ふに

 帝が石清水八幡宮への行幸からお帰りになられる際に、女院の桟敷の向こうに御輿を停めてご挨拶なさったのなんか、とってもすばらしくて、そんな帝というお立場にもかかわらず、かしこまってご挨拶されるのが、かつてこの世では聞いたことないくらい素敵で、ほんと私、涙が溢れ出て顔のお化粧も全部とれてスッピンになっちゃって、どんなにか見苦しいことでしょう。
 帝の宣旨のお使いとして、宰相の中将、斉信(ただのぶ)が女院の桟敷へと参上なさったのも、すごくいい感じに思えたわ。随身がわずかに4人、そして立派な装束をしっかりとまとった身の引きしまった馬副(うまぞい)で白くメイクを施してる者だけを連れて、二条の大路の広くてキレイな道を、見事な馬を速く走らせて急いで参上、少し離れた場所で馬から下りて、側の御簾の前に侍っていらっしゃったりしたのもすごく素敵なの。女院のご返事を承って、また帰って帝の元に参上し、御輿のところで申し上げる様子なんかは、言うまでもないくらいすばらしいのよね。

 さて、帝が御前の内をお通りになるのを、ご覧になってらっしゃるだろう女院のお気持ちをお察ししたら、舞い上がってしまう心地でしょう、って思えたわ。こういう時には、長々といつまでも泣いてて、笑われちゃうの。身分が高くない人でさえ子どもが立派になるのはとてもすばらしいことで、こんな風に女院のお気持ちをご推察申し上げるのは、畏れ多いことではあるのだけれど。


----------訳者の戯言---------

前段の最後に「めでたきことを見聞くには、まづただ出で来にぞ出で来る(すばらしいことを見聞きしたりすると、すぐに涙がどんどん溢れ出てくるの)」という一文がありましたが、それを受けてのお話(つづき?)でしょうか。

行幸は帝が出かけること全般です。もちろん、帝=一条天皇ですね。女院というのは、以前の天皇の奥さん、つまり皇后だった人。ここでは一条天皇の母、東三条院藤原詮子という人です。

宣旨というのは、勅令を伝達する文書だそうです。これを持って伝達する役目を仰せつかったのが、「宰相の中将」でした。参議で、かつ近衛府の中将を兼ねた藤原斉信という人です。「かへる年の二月廿余日」「頭の中将の、すずろなるそら言を聞きて」の主人公として出てきました。「里にまかでたるに」や「無名といふ琵琶の御琴を」にもちらちらっと登場しています。
おしゃれで、美男子、機転が利いて、インテリジェンスもあって、モテモテなナイスガイ。藤原公任藤原行成源俊賢とともに一条朝の四納言と称された、エリートでもあるのです。
例によって清少納言藤原斉信のスマートなイカした振る舞いも書かずにはいられなかったのでしょう。

随身は少し前の段でも出てきました。貴人の警護担当、SPです。

馬副(うまぞい)。馬に乗った貴人に付き添っていく従者のことをこう言ったそうです。

天皇という立場でありながら、生母とは言え、かしこまってご挨拶される様子に感動!涙が止まらなくって…みたいな話です。女院の気持ちを察すると…テンションあがるでしょうね、とも。一般人でも子どもが立派になるとうれしい、でもレベル違うし畏れ多いけど。的な趣旨です。

こういうので、メイクぐしゃぐしゃ、スッピン状態でみっともないけど泣きまくりの私です、と自嘲しながらも、こういうステキなことに感動するステキな私という自画自賛になってしまっています。


【原文】

 八幡の行幸のかへらせ給ふに、女院の御桟敷のあなたに御輿とどめて、御消息申させ給ひしなど、いみじくめでたく、さばかりの御ありさまにてかしこまり申させ給ふが、世に知らずいみじきに、まことにこぼるばかり化粧じたる顔みなあらはれて、いかに見苦しからむ。宣旨の御使にて斉信の宰相の中将の御桟敷へ参り給ひしこそ、いとをかしう見えしか。ただ随身四人、いみじう装束きたる、馬副(むまぞひ)の細く白くしたてたるばかりして、二条の大路の広く清げなるに、めでたき馬をうちはやめて急ぎ参りて、少し遠くより下りて、傍(そば)の御簾の前に候ひ給ひしなど、いとをかし。御返り承りて、また帰り参りて、御輿のもとにて奏し給ふほどなど、いふもおろかなり。

 さて、うちのわたらせ給ふを見奉らせ給ふらむ御心地、思ひやり参らするは、飛び立ちぬべくこそおぼえしか。それには長泣きをして笑はるるぞかし。よろしき人だになほ子のよきはいとめでたきものを、かくだに思ひ参らするもかしこしや。

 

NHK「100分de名著」ブックス 清少納言 枕草子

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