枕草子を現代語訳したり考えたりしてみる

清少納言の枕草子を読んでいます。自分なりに現代語訳したり、解説したり、感想を書いています。専門家ではないので間違っていたらすみません。ご指摘・ご教授いただけると幸いです。私自身が読む、という前提ですので、初心者向けであって、何よりもわかりやすい、ということを意識しているのですがいかがでしょうか。最初から読みたい!という奇特な方は「(PC版)リンク」から移動してください。また、検索窓に各段の冒頭部分や文中のワードを入れて検索していただくと、任意の段をご覧いただけると思います(たぶん)。

草は

 草は、菖蒲、菰。葵はすっごくステキ。神々の御代から葵祭の髪飾りとして使われたんだから、とってもすばらしいものよ。見た目の形もめちゃくちゃいい感じだしね。沢瀉(おもだか/面高)は、名前が面白いわ。(顔が高いトコにある、って)思い上っているんじゃない?って思えるでしょ。

 三稜草(みくり)。蛇床子(ひるむしろ)。苔。雪の間に出てる若草。こだに。酢漿(かたばみ)は、綾織物の紋様にもなってるし、他のよりは素敵かな。

 「あやふ草(危ふ草)」は、岸の額みたいなところに生えてるらしいけど、ホント危なっかしいわね。「いつまで草」は、名前どおりこれまた儚げでしんみりいい感じ。岸の額よりも、こっちのほうが崩れやすいんじゃないかしら。本物の漆喰壁なんかに生えることもできないって思えちゃうのは、ダメなところよね。

 ことなし草(事成し草?)は、願い事を叶えてくれるのかな、って思うとステキだわ。忍ぶ草は、(名前が)すごく感動的。道芝も、とってもいい感じね。茅花(つばな)もいいよね。蓬(よもぎ)もすごくいかしてるわ。山菅、日陰、山藍、浜木綿、葛、笹、青つづら、なづな、苗、浅茅なんかもすごくいいわね。

 蓮の葉は、他のどの草よりもとくに優れて立派よね。「妙法蓮華経」に「蓮」の字が入っててシンボリックだし、花は仏様にお供えするし、蓮の実は数珠になるわけで、念仏を唱えて極楽に往生するための縁にするものなんだから。それに、他の花が咲かない頃、緑色の池の水に紅い花を咲かせるのが、とっても感じいいの。「翠翁紅」って詩にも出てきてるくらいなんだからね。

唐葵は、太陽の動きに従って傾くのが、草木とは言えないほどの心持ち。さしも草。八重葎(むぐら)。つき草は、心変わりしやすいっぽい名前が嫌なところだよね。 


----------訳者の戯言---------

原文にある葵の「挿頭(かざし)」というのは、髪や冠に、花や枝を挿したのを言ったそうです。古くは、生命力を身につける呪術的な意味があったらしいですが、そのうち形式化し、造花を用いることが多くなっていったらしいですね。
冒頭部に出てきた葵は、後で出てくる唐葵(からあおい)=立葵(たちあおい)とは別のもので、こちらは双葉葵(二葉葵/ふたばあおい)と呼ばれるものだそうです。葵祭の時に使われるので、賀茂葵の異名もあるようですね。

三稜草(みくり/実栗)といえば、「逃げ恥」の主人公が「みくり」という名前でした。ガッキーがやってた役ですね。どうやら、原作(コミック)の作者は、この草の名前から付けたようです。みくりの兄は「ちがや」(千萱?)でしたから、こっちも植物名ですね。これ、後のパラグラフで出てくる茅花(つばな)と同じもの、というか、ちがやの花を「茅花」と言うんですね。どうでもいいですか、そうですか。

蛇床子(蛭筵/ひるむしろ)は、水草なんですが、浮葉を蛭が休息するための筵(むしろ)に例えて名付けられたんだそうです。

酢漿(かたばみ/酢漿草/片喰/傍食)ですが、葉っぱがハート型の3枚が尖った先端を寄せ合わせたような形になっていて、これが意匠、文様として優れているということなんでしょう。たしかに、片喰紋(酢漿草紋)という家紋があるようです。
ちなみに、ももクロの家紋(マーク)のまん中部分は4枚葉ですが、やはりこの葉っぱです。クローバーの葉っぱは実はハート形ではないんですね。このカタバミのほうがカワイイので、今もデザイン的にこれが使われやすいんでしょう。

いつまで草(何時迄草/常春藤)。清少納言は「いい」と思いつつ「悪い」という印象もありという微妙な判定。実体を知らず、名前の印象で書いているのでこうなるのもわかるんですが、ちょっとひどいかなと思います。

「いつまで草」については、①キヅタの異名 ②ノキシノブの異名 とコトバンク(出典は大辞林第三版)に出ています。
「キヅタ」というのはツタなんですが、木に近いのでキヅタなんだそうです。
キヅタの枝は気根を出し、岩上や樹上をよじ登る。と示されています。気根というのは、本来地中にある根が地上(空気中)に出ているもので、いろいろなスタイル、機能があるそうですが、前述のとおりキヅタの場合は樹木の表面や壁面などに着生したりするんだそうです。
「ノキシノブ」は、名前の由来として「家の軒先に生育し、土が無くても堪え忍ぶ」という意味で、大樹の樹皮や崖、傾斜が急な場所の地表などに生育するのだそうです。むしろ、ノキシノブが地表に生育するのは、傾斜が急であって、表面に土砂がたまらないような場所らしいです。

つまり、「いつまで草」が「キヅタ」「ノキシノブ」であるとすれば、清少納言の書いてる内容とは真逆な感じですね。ということは「いつまで草」は別の草なのでしょう。謎。

唐葵というのは「立葵(たちあおい)」の古名だそうです。
最初のほうに出てきた「双葉葵」ではなく、「葵」と言うと普通、この「立葵」のことを指すらしいですね。「あおい」は、ここにも書かれているとおり、葉が太陽の方に向かうところから、「あふひ」(仰日)の意味があって、この名(あふひ→あおい)になったようです。
文章だけ見ると、ヒマワリ(向日葵)のようにも思え、最初は私も向日葵の線で調べていたんですが、残念ながら当時はまだ日本に輸入されていませんでした。入って来たのは江戸時代のようです。

葵ですが、だいたい和歌なんかでは、葵=「あふひ」と表記しているのはご存じかと思います。発音としては、「あおい」に近い「あふひ」。なんのこっちゃ。

月草というのは、私たちの知っている露草のことらしい。この花で染めた藍色はたちまち薄くなってしまうことから、心変わりすることを月草の花に例えることが、とくに和歌なんかでは多々あったらしいですね、万葉集の時代から。それで、ちょっとヤだよね、と。

で、この段、名前が面白いのか、色や形なのか、性質、存在が面白いのか、それぐらいは各々書いておいてくれてもいいだろうと思いました。
書いてあるのもあるし、何の説明もないのもありますから、とりあえず全部書いてくれよ―ということです。

今さら言っても1000年遅いですが。草生えますね。


【原文】

 草は 菖蒲。菰(こも)。葵、いとをかし。神代よりしてさる挿頭(かざし)となりけむ、いみじうめでたし。もののさまも、いとをかし。沢瀉(おもだか)は、名のをかしきなり。心あがりしたらむと思ふに。

 三稜草(みくり)。蛇床子(ひるむしろ)。苔。雪間の若草。こだに。酢漿(かたばみ)、綾の紋にてあるも、ことよりはをかし。

 あやふ草は、岸の額に生ふらむも、げにたのもしからず。いつまで草は、またはかなくあはれなり。岸の額よりも、これはくづれやすからむかし。まことの石灰などには、え生ひずやあらむと思ふぞわろき。

 ことなし草は、思ふことを成すにやと思ふもをかし。忍ぶ草、いとあはれなり。道芝、いとをかし。茅花(つばな)もをかし。蓬(よもぎ)、いみじうをかし。山菅。日陰。山藍。浜木綿。葛。笹。青つづら。なづな。苗。浅茅、いとをかし。

 蓮(はちす)葉、よろづの草よりもすぐれてめでたし。妙法蓮華のたとひにも、花は仏に奉り、実は数珠に貫き、念仏して往生極楽の縁とすればよ。また、花なき頃、緑なる池の水に紅に咲きたるも、いとをかし。翠翁紅とも詩に作りたるにこそ。

 唐葵(からあふひ)、日の影にしたがひて傾くこそ草木といふべくもあらぬ心なれ。さしも草。八重葎(むぐら)。つき草、うつろひやすなるこそうたてあれ。

 

マンガでさきどり枕草子 (教科書にでてくる古典)

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